あすにかける 中央銀行の栄光と苦悩 ハワード・デイビス、デイビッド・グリーン著/井上哲也訳 ~コンセンサスなき新しい論点に挑戦

あすにかける 中央銀行の栄光と苦悩 ハワード・デイビス、デイビッド・グリーン著/井上哲也訳 ~コンセンサスなき新しい論点に挑戦

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長

米国の中央銀行には、物価安定と最大限の雇用の二つの使命が課せられている。日銀の目標にも、物価安定だけでなく、最大限の雇用を取り入れるべきという意見も少なくない。ただ、日銀法には、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」が政策の理念に据えられており、すでに法的にも米国流の二つの使命に近い。日銀が厳格なインフレ・ターゲットの導入に反対してきたのは、物価安定だけを追求すると、実体経済や金融市場の振幅が激しくなることを懸念していたためなのだろう。

現在、欧米の中央銀行関係者の間では、物価安定の下での低金利政策の長期化が、大規模な信用バブル発生とその後の金融危機をもたらしたという反省が広がっている。物価安定の追求だけでは不十分で、金融システムの安定への配慮も不可欠なのである。これが、新たに「物価安定の目途」を導入した際も柔軟なインフレ・ターゲットという形に日銀がこだわった理由だが、十分理解されていない。

本書は、英国の中央銀行と金融サービス庁(日本の金融庁に相当)で要職を務めた著者が、世界金融危機の経験を踏まえ、今後の中央銀行のあるべき姿を論じたものである。類書では、物価安定を目的とした金利政策ばかりが論じられるが、本書では、資産インフレへの対応を含め金融システムの安定などにも、十分な紙幅が割かれている。

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