吉沢亮主演『国宝』大ヒットの背景に“歌舞伎ファン”の圧倒的な支持 「上映3時間」「難解なテーマ」ながら、なぜ若者にも支持されるのか?

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しかし、その舞台をきっかけに、それまでひとつだった2人の道が別々になる。そして、その8年後に再会するが、歌舞伎の世界の世襲の残酷さが再び2人に襲いかかる。2人の間の関係性には、感情をぶつけ合うような派手な演出もドラマティックな展開もない。それゆえ淡々とリアルが映る。

本作は、鬼気迫る役者陣の芝居に圧倒される一方、伝統芸能の世界に生きる2人のそれぞれの人間性や揺れる心の内が、まるでドキュメンタリーのように伝わってくる側面もある。

そこから映し出されるのは、決して逃れられない歌舞伎の世界に翻弄される2人の人生の浮沈。同じ時代に生きるわれわれとは別の世界を生き抜く彼らの生き様が、まざまざと描かれている。

横浜流星
上方歌舞伎の名門の御曹司・俊介を演じた横浜流星(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会

目の肥えた歌舞伎ファンに認められた作品性

そんなリアルな歌舞伎の映像と人間ドラマが融合し、さまざまな歌舞伎の演目と重ね合わせたストーリーとして昇華されることで、伝統芸能の舞台の美しさに包み込まれる世界観に圧倒されながら、物語に引き込まれる。

本作には、原作者の吉田修一氏自身が3年間歌舞伎の黒衣を纏い、楽屋に入った経験を血肉にした、歌舞伎の世界の生々しいまでのリアルな息づかいがあり、そこに命をかける人々の魂が宿っている。映像も物語もすべてが美しく、光り輝いているような作品だ。

生の舞台の息吹を感じるのと同時に、映像演出によって拡張されたエンターテインメント作品としての躍動感がある。そんな作品だからこそ、歌舞伎の舞台を日頃から鑑賞する目の肥えた歌舞伎ファンに支持された。公開後の口コミの広がりは、歌舞伎の楽しみ方のひとつとして、歌舞伎ファンに認められたことを示しているだろう。

そこには、歌舞伎の世界に生きる人々の生き様そのものがある。それを生の舞台とは異なる歌舞伎のおもしろさとして、歌舞伎ファンが口コミで伝えている。

そして、若い世代をはじめ、幅広い層に作品が届きはじめている。彼らにとっては、美しさに圧倒される衝撃的な歌舞伎体験であり、伝統芸能との貴重な出会いになるだろう。映画鑑賞後には、歌舞伎演目の「二人藤娘」「二人道成寺」「曽根崎心中」「鷺娘」を見に行きたくなるに違いない。

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