吉沢亮主演『国宝』大ヒットの背景に“歌舞伎ファン”の圧倒的な支持 「上映3時間」「難解なテーマ」ながら、なぜ若者にも支持されるのか?
そんな本作のヒットの要因には2つのポイントがある。その両立が稀に見る傑作になり、性別や年齢を超えて支持を広げている。
ひとつは、伝統芸能の舞台を掘り下げて解像度高く鮮明に映し出した芸術性の高さ。もうひとつは、俳優陣の鬼気迫る熱演が映える、苦悩と葛藤の壮絶な人間ドラマが濃密に描かれ、商業性においても優れた内容であることだ。
日本の伝統芸能である歌舞伎舞台の楽屋から上演前後の有り様まで、その内幕をリアルに映しながら、映像ならではの視点と演出を加えて、映像エンターテインメント作品として成立させている。
歌舞伎の名門一家に生まれた子どもの厳しい稽古や師弟関係、配役や襲名を巡る熾烈な競争やかけひきなど、華やかな世界の裏側の現実にもカメラを向け、彼らを取り巻く環境とそのなかで生き抜く現実をまざまざと見せつける。
同時に、劇中劇になる歌舞伎の上演シーンが多く盛り込まれ、音楽や音響、舞台装置までを客席で見ているような臨場感で味わえるほか、緞帳が上がる前のステージの様子や、舞台袖の役者の視点も加わり、映像作品ならではの歌舞伎が存分に楽しめる。
伝統芸能の世界に生きる2人の人生の浮沈を描く
加えて、波乱万丈の王道の人間ドラマもしっかりと描かれている。
高校時代に出会い、ライバル関係になる喜久雄と俊介の間は、ともに芸を磨くなかで深い友情で結ばれるが、心の底には、跡目争いにおける血筋と芸の実力をめぐる葛藤と苦悩があり、それがあるときに激しくぶつかり合う。

そんな2人が袂を分かつきっかけになるシーンがある。半二郎が不慮のケガで欠場を余儀なくされた際、息子の俊介ではなく、弟子の喜久雄が代役に抜擢される。2人はそれぞれ複雑な感情を抱く。
その本番前に、緊張と気負いと舞台への恐怖から、手が震えてメイクができない喜久雄は「俺には守ってくれる血がない」と涙を流す。そんな喜久雄に俊介は「お前には芸がある。大丈夫」と化粧を施す。本物の役者になりたいという強い思いがにじむ2人の心の広さとお互いを思い合う絆の深さに心を打たれる。
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