すべてをコントロールしようとし、最適化や効率化を求める現代人は、なぜ不安や絶望感に苦しんでいるのか

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だが、私たちにとってこの上なく素晴らしい瞬間というのはしばしば、効率性が最も低く、物事を達成したいという思いがいったん棚上げされている束の間の経験であり、その報いは、一瞬うっとりとした気持ちになれることだけだ。

これが21世紀の生活のパラドックスであり、現代社会では、たじろぐほどの繁栄が、急激に強まる疎外感や絶望感、存在にまつわる心もとなさと抱き合わせになっているように見える。

人間はかつてないほど高度な文明を次々に築き、地球に光彩を与えてきたが、その文明の中でうまく暮らしていくために薬に頼らなくてはならない人は数え切れないほど多い。

制御可能にしようという願望

私たちは、古代の人々がとうてい想像しえなかったほど世界の多くをコントロールすることができる。

地中から鉱物を掘り出し、自由に導いたり止めたりできる電子の流れによってそれに動力を与え、かつてはたくましい空想力を持つ人の頭の中にしか存在しなかった魔法使いやエイリアンやスーパーヒーローをスクリーン上に出現させられる。

今では、人間とは別の頭脳を創り出すことさえ可能になりはじめており、その頭脳は独自の芸術や文学を生み出すことができるだろう。

こうした展開の下で、私たちはどうなったのか? どんな基準に照らしても、暮らしは以前よりも良くなっているのに、私たちの多くは悪くなったと感じている。

ドイツの社会学者ハルトムート・ローザによれば、これは私たち自身が作り出した絶望であり、テクノロジーのせいではなく、世界を制御可能にしようという強く空しい願望のせいだという。

昨今の至上命令は単純明快だが殺伐としている、とローザは述べている。その至上命令とは、「常に、世界における自分の取り分を増やすべく行動すること」だ。

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