なぜ日本人は池井戸潤ドラマに惹かれるのか

今年4本目の「下町ロケット」に注目も

また、池井戸さんの小説は、「正義と悪」「熱血と冷淡」「有能と無能」など、キャラクターの対比が明快かつシンプル。「こういうことをする人はこういうタイプ」「だからこの人とあの人は対立するのだろう」というステレオタイプな物の見方をしがちな現代の視聴者心理にフィットしやすいとも言えます。

コアを打ちつつ、マスを打つ

そして、最も特徴的なのは、主人公の描き方。池井戸さんが描く、半沢直樹、花咲舞、『下町ロケット』の佃航平は、「日ごろ納得のいく評価を受けていない」、あるいは「理不尽な扱いを受けている」世間の人々にとって、等身大のヒーローそのものです。

描き方のポイントは、自分の仕事を貫き通す姿と、日ごろ言えないことを代弁する痛快さ。とりわけ逆境や不正に立ち向かう意志の強さは、「どこか自分の仕事や上司・同僚・取引先と向き合えない」サラリーマンから羨望の眼差しを向けられています。視聴者は主人公を「できればこうありたい」「こんな人が身近にいてくれたらいいのに」という目線で見つめ、明日への活力にしているのでしょう。

池井戸さんがこのような人物像を描けるのは、「あくまでサラリーマンの味方であり、サラリーマンとしての人生を肯定している」から。これほど気持ちよくドラマを見られるのはそんな姿勢があるからであり、池井戸さんが「サラリーマンのみなさんに読んでほしい」という強い思いを持って書いていることに他ならないのです。

少し話を変えると、よく「Mr.Childrenの楽曲は『まるで僕の気持ちをピンポイントで歌っているみたい』と思う」という人がいますが、彼らがすごいのは数千万もの人々に同じことを感じさせていること。言わば、「コアを打ちつつ、マスを打つ」という理想的な訴求なのですが、池井戸さんの小説もそれと同じことが言えるのではないでしょうか。

厳しい現実を吹き飛ばす成敗シーン

そして、池井戸さん原作ドラマで欠かせないのが、“ラスト10分での成敗シーン”です。「現代版『水戸黄門』」と言われた『半沢直樹』、そして「女・半沢直樹」と言われた『花咲舞が黙ってない』だけでなく、『民王』や『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)にも、終盤にスカッとさせてくれる成敗シーンが用意されていました。

印籠のごとく、「そろそろ出るぞ」と心の準備をさせておいて、定時にバシッと決めてくれる。ピンチを乗り越えての逆転劇や下剋上だけにカタルシスは大きく、モヤモヤを抱えたまま終わることはほぼありません。「何気ない日々に希望を見出したい」という人々にとっては、現実を吹き飛ばす“勧善懲悪のファンタジー”であり、これほど心地のいい予定調和はないのです。

前クールで放送された『エイジハラスメント』(テレビ朝日系)のような勧善懲悪のファンタジー作品が増えたのは、明らかに池井戸さん原作ドラマの影響であり、今後も見られるでしょう。厳しい社会をリアルに描きながらも、後味のいい結末で希望を与える池井戸さんの小説は、「閉塞感の漂う今だからこそ見たい」と思わせる要素を備えているのです。

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