なぜ日本人は池井戸潤ドラマに惹かれるのか

今年4本目の「下町ロケット」に注目も

池井戸さんの小説がドラマ向きなのは、本人が「あくまでエンターテインメントのひとつと割り切って書いているから」という理由もあります。前文で「社会をリアルに描きながらも」と書きましたが、一般企業を舞台にした設定こそ身近ながら、人物描写や問題点などのリアリティはほどほど。リアリティよりも、読者が「思わず主人公を応援し、敵に嫌悪したくなる」感情移入を優先させています。

その熱さは平成の「ドラマジャンプ」

そのような「熱くストレートに感情移入できる」というコンセプトは、ドラマよりもマンガのそれに近く、言うなれば昭和の『少年ジャンプ』『ヤングジャンプ』というイメージ。「平成の『ドラマジャンプ』」とでも言いたくなるその筋書きは、小中学生のころに『ジャンプ』を読んで育った世代にバシッとハマるのではないでしょうか。

また、そのような感情移入を優先させた筋書きは、あれこれ策を弄するよりも「どう撮ればいちばん視聴者に伝わるのか?」に一点集中できるため、ドラマ演出家の地力を引き出す好循環を呼んでいます。さらに、もともと池井戸さんは銀行員の経歴を持つ元サラリーマンであり、38歳での小説家デビュー前にビジネス書を執筆していた苦労人。ゆえに、小説の内容変更に寛容であり、スタッフを信頼して任せるため、ドラマ演出家たちは思い切った撮り方ができるのです。

なかでも『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』を手がけた福澤克雄監督は、迫力のあるカメラワークで小説の持つドラマ性を見事に増幅させていました。『下町ロケット』も福澤監督が手がけるだけに期待が集まっています。小説読者やテレビ視聴者に加えて、スタッフ心理にも配慮できるのですから、池井戸さんが多くの人々から求められるのは、もはや必然なのです。

ここまでさまざまな理由を挙げてきましたが、筆者が最も魅力を感じるのは、池井戸さん本人の潔さと、商品としてのパッケージ力。「自分の書きたいものでも、喜んでもらえないのなら書かない」「ドラマはその道のプロにゆだねる」という方針は、作家というよりもサラリーマンに近く、それが小説の魅力を最大化させているように見えます。

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