「100万回生きたねこ」→「100万回死んだねこ」、「わたし、定時で帰ります。」→「私、残業しません」に脳内変換されるのは必然だ

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すると、実験参加者が答えた車の速度は、質問に使われた単語のイメージと連動していました。「Smashed」と聞かれたときはスピードが出ていたと答え、「Collided」「Bumped」「Hit」「Contacted」の順にどんどん速度が低下していきました。

(図:『人生の大問題と正しく向き合うために認知心理学』より)

ビデオはまったく同じであったにもかかわらず、質問文がたった1単語変わっただけで、証言された事故の激しさが変わってしまったのです。

このような実験から、「見たものをそのまま記憶する」ことは、人間にはできないということがわかります。ビジュアル情報を見た後に、どんな名前を想起するか、どんなことばで尋ねられるかに、「見たはずのもの」が大きく影響されてしまうのです。

『100万回生きたねこ』は、100万回死んでいる

脆弱なのは視覚情報に関する記憶だけではありません。言語情報も同じです。

『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』(福井県立図書館編著、講談社文庫)という楽しい本があります。これは福井県立図書館の司書さんたちが、利用者の「書名の覚え違い」を集めた本です。利用者さんは本を探す際に司書さんに、

「『100万回死んだねこ』貸してください。」

と言うわけですね。

ただ、このときに利用者さんの言うタイトルが、よく間違っているのです。『100万回死んだねこ』のほんとうのタイトルは、『100万回生きたねこ』(佐野洋子作・絵、講談社)です。

他にも、

「ドラマ化した『私、残業しません』って本ありますか?」

という事例も載っていました。これも正しいタイトルは、『わたし、定時で帰ります。』(朱野帰子、新潮文庫)です。

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