① ニクソン氏とトランプ氏は、いずれもアメリカの覇権国としてのコストが持続不可能であると考え、前者は「ドル・金交換停止」(固定相場制の終了)、後者は「相互関税の導入」という世界を驚かせる挙に出た。
② ともに貿易赤字の削減が必要だと考えて、ドルの切り下げを狙った。ニクソン氏は当時の日本と西ドイツを標的にしたが、トランプ氏も「敵国よりも同盟国の方がひどい」という認識を有しているようだ。
③ ニクソン氏はドルを金本位制から離脱させるとともに、「10%の輸入課徴金」を課した。この時に使われたのは「1917年敵国交易法」(TWEA)という古い法律だが、その後継法が現在の「国際緊急経済権限法」(IEEPA)、すなわち相互関税の法的根拠である。
④ ともに経済政策への姿勢が「ハンズオン」、介入主義的である。ニクソン氏は価格と賃金を統制することでインフレを抑え込もうとしたが、うまくいかなかった。トランプ氏もインフレ抑制が課題だが、地下資源の開発促進による石油価格の引き下げなど、強引な手法が目立つ。
⑤ 呆れたことに、金融緩和を求めてFRB(連邦準備制度理事会)に圧力をかけたことまでそっくりである。ニクソン氏が指名したアーサー・バーンズ議長は、1970年代後半のコントロール不能なインフレを招いてしまい、「史上最低のFRB議長」などと呼ばれている。「中央銀行の独立性」が認められている今日においては、ジェローム・パウエル議長になんとか頑張り通してほしいところだが・・・・・・。
2人の最も重要な共通点は「新たな票田の獲得」
ほかにも2人の大統領を比較すると、面白いくらい共通点が見つかる。いずれも共和党内ではアウトサイダーであったとか、権力の乱用で議会に弾劾されかけたとか、いずれも次男で長兄が早死にして、若くして一家の期待を背負う立場になった、などである。
ただしもっとも重要なポイントは、ニクソン氏が「南部戦略」、トランプ氏が「ラストベルト」という形で、共和党にとって新たな票田を開拓した人物だということであろう。
よく知られている通り、ニクソン氏は1960年の大統領選挙で民主党のジョン・F・ケネディ上院議員に敗れている。選挙人数ではケネディ303対ニクソン219だったが、全米50州のうち26州で勝利し、得票率ではわずか0.1%差に迫っていた。
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