調べれば調べるほどトランプ政権はニクソン政権とそっくり、もしベッセント財務長官への信頼が揺らげばアメリカはどうなってしまうのか

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こうして振り返ってみると、ますます歴史が「韻を踏んで」いるように思えてくる。ニクソン氏は、南部の白人低所得層を抱き込む必要があった。そのために日本との通商摩擦が使われたわけで、今も昔もまったく変わらない図式ではあるまいか。

今回の「トランプ関税」に対し、われわれが納得のいかない思いがするのはまさにこの点にある。アメリカにおける「忘れられた人々」の問題は、本来、国内の再分配政策によって解決すべきであろう。すなわち金持ちから税金をとって、貧困層に分配すればよい。何も通商問題を引き合いに出すことはない。

ところが共和党は元来、富裕層の味方である。新たに低所得層の支持を取り込む際に、金持ちを敵に回したり、支持層が分裂したりすることは避けたい。しかも「忘れられた人々」は誇り高い人たちであって、けっして政府からの「施し」を求めているわけではない。むしろ、彼らはそういう行為をもっとも嫌う人たちなのである。

そこで人々に響きやすいのが、「アメリカは外国から搾取されてきた」という言説である。このナラティブ(物語)、まことに好都合なのだ。敵が海外であるならば、国内の富裕層と低所得層の分裂を招かなくて済む。そして関税をテコに外国から得られる利得は、対米輸入の拡大や対米投資の促進、あるいは市場開放でも何でもいいのである。

しかも困ったことに、「アメリカはこれまで多くの国際公共財を負担してきたではないか」と言われれば、それは少なくとも間違いではない。強大な軍事力を維持して平和を守ってきたのは誰か、自由貿易や国際金融システムが維持されてきたのは誰のお陰か、と言われると、いやはや貴方様のお陰です、と言わざるをえない。かくして日本や欧州は内心ぼやきつつも、アメリカを相手に相互関税の交渉に乗っているわけである。

ひとつだけ困ることがあって、それは為替レートの問題だ。ドルは基軸通貨であるから、諸外国はなるべく外貨準備としてドルを持とうとする。結果としてドルの価値は必要以上に高くなってしまう。そのためにアメリカの製造業は競争力を失ってしまった、というお馴染みのナラティブである。

この議論、トランプ政権にとってはまことに都合がいい。特にMAGA派と呼ばれる熱烈なトランプ支持層には「刺さる」のであろう。製造業の衰退は自分たちのせいではなく、不当に高い為替レートのせいだったということになる。

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