VWとBMW、排ガス規制問題「不正」の境界線 「二兎を追う」は都合がよすぎた

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VW急成長の裏側には、「Mach 18」の掛け声のもとで進められてきた戦略があった。"Mach"とは、ドイツ語で「やりなさい」という意味を持ち、2018年までに世界1位の自動車メーカーになることを示唆したものだ。ヴィンターコルン前CEOの就任後まもなく発表された「ストラテージ2018」では、VWブランド単体で2007年当時の360万台から2018年までに650万台へと増産し、グループ全体で1120万台を生産するまでに成長するという野心的な目標を掲げたのだ。

今年上半期、ついに世界一に躍り出る

当時のVWは、主力モデルが不人気で苦境に喘いでいた。ヴィンターコルン前会長は投資が滞っていることを問題視し、新製品や技術の開発に年間80億ユーロを投資することで、年間6%もの急成長に転じさせるという戦略を打ち出した。その結果、2014年の販売台数はトヨタが1023万台で世界一の座を死守したものの、VWが1014万台と肉薄し、992万台で3位に続いたGMを大幅に引き離した。

そして今年上半期、VWはついに世界一に躍り出た。主要な市場である中国やブラジルで成長に陰りが見られるものの、トヨタの販売台数が世界的に伸び悩んでいることもあって、"Mach 18"で掲げた目標に先駆け、2015年暦年で世界最大の自動車メーカーとなることは確実視されていた。

排ガス不正が発覚する直前のVWは、磐石の経営体制を築きつつあった。VWブランドを率いるCEOにBMWの前研究開発担当役員だったヘルベルト・ディース氏が就任し、ヴィンターコルン前CEOがアウディのCEOだった時代に、共に成長の礎を築いたウォルフガング・ハッツ氏とウルリッヒ・ハッケンベルク氏が、それぞれポルシェとアウディの技術部門を率い続ける。

そして、ポルシェのCEOはアウディでブランド戦略やプロダクト戦略を立ててきたマティアス・ミュラー氏が、アウディのCEOはヴィンターコルン氏の後任をつつがなくこなしてきたルパート・シュタットラー氏が、それぞれ続投するという体制だ。ただし、ヴィンターコルン氏が2018年までに続投するものの、ドイツのメディアではミュラー氏がその後任として確実視されており、「ポルシェの次期CEOは誰なのか?」という噂にまで発展していた。

ところが、わずか10日で事態は一変した。EPAによって、ディーゼル車の排ガスに関するVWの不正が発表されて以降、さまざまな憶測が流布していたが、9月25日に開かれた緊急取締役会で、ようやくVWによる対応が発表された。現状と今後の取り組みについては、9月28日配信の記事「VWは、この多難をどう乗り切るつもりなのか」にまとめたので、ご一読願いたい。

この問題を追う上で最も重要なのは、VWが行ったことと、そのうち何が"justice(正義)"であり、何が"injustice(不正)"なのか、だ。

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