「そっちが狂ってるなら、こっちも狂うしかねぇんだよ」 “ディズニーなのに人喰い”だけじゃない 「ガンニバル」が《攻めた作品》といえる訳

✎ 1〜 ✎ 134 ✎ 135 ✎ 136 ✎ 137
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

“なぜ”の根拠を見つめる

後藤家の当主だった後藤銀の過去描写には特に力が入っています。銀はシーズン1で倍賞美津子が演じ、後藤家の人間以外を「家畜」扱いする冷酷無慈悲な性格の登場人物です。過去パートでは恒松祐里が若き頃の銀役を務め、彼女の狂気が村に受け継がれるすべての呪いの始まりとなる話が描かれています。

つまり、目を離さず“なぜ”の根拠を見つめるのです。大悟が「何だよ、しきたりって……何で人を喰うんだよ。何でお前らは、この村は、それを平気で受け入れてるんだよ!」と憤る気持ちに寄り添うだけでも成立しますが、あえてアンサーを返すのです。相手を知ることで深みをもたらす大事なシーンだと思います。

過去パートで後藤銀役を恒松祐里が好演
すべての呪いの始まりが明かされる過去パートで後藤銀役を恒松祐里が好演する(写真:© 2025 Disney)

制作陣も労力をかけて過去パートを作り出したそう。山本プロデューサーは「過去パートを端折って語りのみやダイジェスト的に表現する選択肢もあったかと思います。でも、根源を描かないと、物語の終わりにはたどり着かないと我々は判断しました」と話します。最後の最後まで視聴者を唸らせるシーンを作り出すことができた裏付けにもなっています。

「ガン二バル」は宣伝文句だけを見れば、「ディズニーなのに人喰い」というタブーを使って安易に話題性を創出しているように思われがちですが、中身は骨太です。原作を尊重したうえで映像化した結果でもありますが、ドラマ作品を通して何を伝えたいのか、伝える意味があるのかを時間をかけて考えた作品であることは間違いないでしょう。理解できない相手をどう受け入れるのか、そんなメッセージが伝わってきます。そういう意味で、“攻めたドラマ”だと言えそうです。

長谷川 朋子 コラムニスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事