昭和の特別な一日 杉山隆男著 ~独特な選択眼で私的な思いをあふれさせる
魅力的な書名だが、著者の関心は昭和のすべてにはない。
本書でいう「特別な一日」とは、昭和38(1963)年から42年までの4年間のうちの4日である。その中心にあるのは、昭和39年10月10日。東京オリンピックの開会した日であるといえば、うなずけよう。
その日を「特別な一日」と思った人は多いだろうが、著者が取り上げるのは、開会式の日、はるか空中にいた男である。
国立競技場の上空1万フィートの大空でオリンピックを迎えた男たち、それは、5機の戦闘機で五輪マークを描いた5人の飛行士である。だがさらに5000フィート上空にいた男に著者は注目する。大空に5彩の丸い円を描くという、前人未踏のオペレーションを指揮した男である。その男によって多くの日本人にとっての記念すべき「特別な一日」が鮮やかに彩られた。
この時期の経済的・文化的な価値観の変化は、人々の目にする風景を大幅に変えた。その象徴が前年の昭和38年4月12日、東京の日本橋を高速道路が覆った日である。未来都市を先取りするかのように、かつてのビジネス街の象徴であった日本橋という街は、高速道路に空を奪われ、象徴から転落した。