面白そうに振る舞える聞き手になれればいい--『聞く力』を書いた阿川佐和子氏(作家、タレント)に聞く
──遠藤周作氏についてはコメディアンだと思っていたとか。
父とは頻繁に会っていたし、うちにも遊びに来ていて、笑わせてばかりいる印象だった。私は中学・高校はプロテスタントの学校に行っていて、その講話で壇上の先生が、遠藤さんの『沈黙』を絶賛したことがあった。こんなすばらしい作家はいないと紹介し、遠藤さんに二面性があることを知った。
遠藤さんは友達の娘をほっておけないと思ったのか、新幹線車内誌の月1回の対談を手伝わせてくださった。あるゲストのとき、遠藤さんの質問に「そのようなこともございます」「嫌なこともなかったわけではございません」といった答えばかりだった。そのゲストが帰った後、遠藤さんは「具体的な話が何もない」とご機嫌斜めだった。それが、具体的な話がインタビューには大事なのだと教えられた最初だった。具体性がないと説得性がなくなる。
──インタビュー相手は多くが初対面の人ですね。
こちらはサービスする側になるから、偉そうにはできない。「ようこそおいでくださいました」という感謝を込めて、機嫌よくなってもらわないと困る。こんにちはとあいさつした途端に、こいつにはしゃべりたくないなと思われたら、そこでストップするから。お節介でない程度に相手の気持ちを酌むのは、初対面の場合には必要なのではないか。それが最初のポイント。
初対面は、仕事の人であろうと、見合い相手であろうと、私は合コンをやったことがないが、合コン相手であろうと同じ。とりあえずこの人は自分が失言したり失敗したりしても、許してくれそうな、今日のところは機嫌がよさそうな雰囲気だなと思っていたら、会っていて安心するし、緊張がほぐれる。そういう人間を装っておく必要はあると思っている。そのうえで、これだけは言わせてもらうというような、おおらかで気がつく人間でいることだ。そうすればいろいろ話しているうちに、互いに本音が出てくると思う。