柱は溶け、屋根は落ち……"陸の孤島"にある20年放置の廃屋、再生し目指すは「廃材流通の拠点」《神戸・有馬口》廃品がセンスの良い照明や食器に

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廃屋修理で使う場合には材を買う必要がなくなるが、修理した廃屋がシェアハウスやアトリエになって収益を上げてくれるまでには時間がかかる。

自分たちで使うのではなく、大工に使ってもらおうとしてもたいていの大工は廃材利用を嫌がる。廃材を床に貼る際には乾燥した材が割れないように上からビスを打つ必要があるが、大工はきれいに作りたがり、ビスが表面に出ないように横からビスを打とうとする。

何に味わい、美や価値を見いだすか。リノベーションや古民家が認知されるようになってはきているが、それでも新品の、整然としたモノをよしとする感覚は使う人のみならず、作り手側にも根強く、廃材利用が一気に広がる可能性はきわめて低い。

集まってきた古物から骨董的価値のあるものを目利きして販売、収益を上げるという手も考えられるが、丸山さんはそのやり方をやらないとまでは言わないものの、そこに全振りはしないという。

「やりたいことは市場価値があるとされているものを見つけて売ることではなく、市場価値がないとされてしまったものの本当の価値を発見、それを伝えて資源が循環する仕組みを作ることだからです」(丸山さん)

価値の転換を図りたいというわけだが、そこまでには時間がかかる。そこで、まずは古物を素材に新しい解釈でモノ作りを行い、それを手に取れる場所を作るという。

床柱を加工したお盆と皿
床柱を加工したお盆と皿。古材の趣が残る美しい品だった(写真:筆者撮影)
廃品を利用した照明
廃品を利用した照明。シェードに使われているのはその昔の蠅取器。内部を砂糖や酒などを入れた水で満たして蠅をおびき寄せ、水死させるという品で、現時点で「山脈」で売られているもののうちで最高値(写真:筆者撮影)

すでに店舗入り口には旧家からレスキュー(廃材をもらってくること)してきた床柱を徳島県神山町の木材旋盤加工所「日の出ロクロ」と共同で製作、古材の趣を生かして作られたお盆とリム皿が並べられている。

今後も廃材の柱を利用したテーブルの脚、フォトフレーム、廃品を使った照明その他の製品を作っていく予定だという。

廃材利活用のネットワークが広がる

また、店舗前の広い庭をオフグリッド経験ができるキャンプ場にする、カフェを作るなどの計画もある。それらを整備、軌道に乗せるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。その先に価値の転換があると考えると現時点を5分の1というのは言い過ぎではないかと悩むところだが、一方で明るい兆しもある。

「2023年からリビルディングセンタージャパンで『リビセンみたいなおみせやるぞスクール』が開かれており、参加者間に廃材利活用のネットワークが生まれています。

遠方に相続した家があり、そこにあるまだ使える家具や木材を使ってほしいという時にその場所の近くにいる他の参加者たちがレスキューに行くなどといったもので、すでに参加者は150人超。同時多発的に全国あちこちでリビセン的な店をやろうという人が生まれ始めています」

価値の転換などありえないと思うかもしれないが、昭和、平成、今を比べただけでもさまざまな変化があったことは誰もが知っている。昭和と今で考えれば変化のスピードはより速くなっている。廃材が普通に使われる日も意外に近いかもしれないのである。

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【写真】朽ちていく廃屋が再生されるプロセスをたくさんの写真で振り返る。廃材を利用した商品も(52枚)
中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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