テレ東「男友達と自炊飯」ドラマが心に沁みるワケ サードプレイスの重要性を教えてくれる一作だ
優太に作ったカレーは、少し勇気を出して久しぶりに取り組んだ料理だったのだ。
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3人の中で唯一既婚者だった葵は、離婚したことを2人に打ち明けた。だからマッチングアプリを始めたのだと明るく振る舞うが、その心の傷口は癒えきっていないように見える。
それぞれのつまずきを抱えた3人にとって、晩活は社会的なプレッシャーから離れ、素の自分でいられる居場所となる。職場でも家でもない、第3の場所――まさしくサードプレイスとしての機能だ。本作はグルメドラマでありつつ、そんな「場」を中心とした物語でもある。
ちなみに『晩餐ブルース』に登場する料理は、唐揚げやキムチ鍋といった家庭で見慣れたメニューが多い。カップラーメンにのせる簡易な野菜炒めを作るときもあり、程よく肩の力が抜けている。
本作にとっての食は、手間や技術に重きを置くものではないということだ。食卓を囲むことで生まれる、居場所にこそ価値があることを『晩餐ブルース』は教えてくれる。
「食のテレ東」の空席を埋めた“アラサー男性もの”
そんな本作、テレビ東京のグルメドラマにありそうでなかった、2人主演による“アラサー男性の物語”でもある。同局で2人が主人公の食ドラマといえば、その世代や属性が直面する悩みを日常の中で丁寧に描いた傑作が多い。
すっかり人気シリーズとして定着した『きのう何食べた?』は、season3を望む声も多いだろう。同作は、弁護士の筧史朗(西島秀俊)と美容師の矢吹賢二(内野聖陽)、中年同性カップルの日々の食卓を描いている。2人がアラフィフになったseason2では、両親の墓の購入、実家の売却など“老い支度”に向き合ったエピソードが印象的だった。
『晩餐ブルース』のプロデューサー・本間かなみ&脚本・山西竜矢のタッグが手がけた『今夜すきやきだよ』は、2023年に放送され、ドラマファンに厚く支持された。こちらは、結婚願望が強く恋愛体質のあいこ(蓮佛美沙子)と、恋愛感情を抱かないアロマンティックのともこ(トリンドル玲奈)、正反対なアラサー女性が共同生活を送る物語。婚姻制度やジェンダーロールをめぐる偏見やすれ違いを繊細に描写した。
そんな同局の“2人食ドラマ”ならではの魅力を、『晩餐ブルース』も受け継いでいる。優太たちは30代。新卒のようなガムシャラさはないが、堂々と中年を名乗るにはまだ早い。彼らが作中で立ち会う迷いや葛藤は、そんな狭間の世代特有のものに思えるのだ。
人生を行ったり来たりしながら、ときに愚痴を吐露し合い、食卓を囲む彼らの姿を見ていると、いつまでもこの時間が続いてほしくなる。
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