限界「ホワイトカラー」にしがみつく人への処方箋 『ホワイトカラー消滅』冨山和彦氏に聞く・前編

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――人口減少がある意味ではプラスに働くと。

人口減少は、危機でもあるが、見方を変えれば、いろんな自由度があるチャンスだ。

日本は長い間、人口ピラミッドが団塊の世代と団塊ジュニアでフタコブラクダのようになって、人手余りの状況が続いていた。ダイナミックな産業構造転換をやると、ついていけない人が大量に余って社会が不安定になるということもあり、変化できなかった。

他方、アメリカではDX型のディスラプションが起こったが、それは皆を豊かにはしなかった。雇用吸収力があまりないからだ。もしIT産業に雇用吸収力があったらトランプは大統領になっていないだろう。IT産業はアメリカ国内においては一部のエリートしか雇用できず、ノンエリートの仕事はどんどん海外に出ていった。AppleのiPhone製造が典型だ。

同じ道を歩んだら日本もしんどかったかもしれない。所得は伸びなかったしGDPも生産性も停滞したが、日本はどこか安全安心な国だ。これを私は「停滞なる安定」と呼んでいる。この30年間、われわれ日本人は暗黙のうちに「停滞なる安定」の道を選択したのだと思う。経済が伸びない、所得が伸びないという代償を払ったが、安定した社会を手に入れている。

幸い、ここにきて人手不足になった。日本にとって大きなチャンスが到来している。デジタル革命の第1段階、インターネットフェーズは言語的世界だからついていくのが大変だった。でもAIフェーズでは、AI自身が言語的バリアを超えてしまう。じきに誰でもAIを使えるようになるだろう。

そうなれば、エッセンシャルワーカーの世界で、自動運転をはじめとするいろんな自動化を進めていくことができる。日本はデジタル敗戦を経験したが、逆襲のチャンスだ。

これからの中等・高等教育で教えるべきこと

――このチャンスに際して、子ども世代や孫世代、今の10代はどういうマインドセットが必要ですか。

日本の小学校・中学校はいいと思う。いろいろ文句を言う人はいるが、重要なのは結局、読み書きそろばんでしょう。それを全員一定レベルに引き上げることは社会全体にとって極めて大事だ。とくに現場人材、アドバンストエッセンシャルワーカーを育てる基礎になる。これに関して日本は世界有数のレベルだ。

あえて欠陥を挙げるとすれば、初等・中等教育は宿命的に平均値に合わせるものになる。すごく上とすごく下は切り落とされるシステムだ。だから上と下にいる子のフォローは必要だが、平均プラスマイナス偏差値10ぐらいのゾーン、大半の子が収まるゾーンはよくできているので、変にいじくり回さないほうがいいと思う。

一方で課題になっているのは、高校から大学の中等〜高等教育だ。今の10代は、漫然とホワイトカラーを目指してもゴールがない可能性が極めて高い。どういう技能・能力でご飯を食べていけるか、人の役に立てるかを真剣に考えることが大事だし、それをもっと学校で教えるべきだろう。

大谷翔平さんのように、子どもの頃から「絶対メジャーリーガーになるんだ」と思える子は例外だ。自分の才能がある程度見えていて、やりたいこともわかっていて、という子はレアケース。そうではない子は、むしろ大学を出るまでにいろんな模索をする。場合によっては大学を出てから20代までは模索をするという社会になってもいいんじゃないか。

撮影・編集:田中険人、昼間將太

▼後編

撮影・編集:田中険人、昼間將太
西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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