限界「ホワイトカラー」にしがみつく人への処方箋 『ホワイトカラー消滅』冨山和彦氏に聞く・前編

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――「大卒はホワイトカラー」というバイアスが根強い中で、日本の大学進学率は5割を超えています。

大学進学率が上がって、ホワイトカラーの仕事は減っているというのが現状だ。デスクワーカー、ノンデスクワーカーでいうと、日本社会では現在6割ほどがノンデスクワーカー。医師や看護師、学校の教員もそちら側だし、多くの人がすでにノンデスクワーカーとして働いている。そして、ノンデスクワーカーは全然足りていない。

日本は世界で最も人手不足な社会だ。少子高齢化が何十年も続いて、生産年齢人口がかなり減った。そんな中で足りていないのは、ホワイトカラーじゃなく、現場人材、非ホワイトカラー職だ。

しかし、リスキリングの議論はデジタル分野に偏りがちだ。ホワイトカラーバイアスは次のホワイトカラーをサポートしようとする。一時期プログラミングが流行ったが、最近は生成AIがコーディングをしてくれるので以前ほど人が必要なくなった。

一方で、現場人材はそう簡単にAIに置き換わらない。フィジカルな仕事、あるいは対面の仕事の領域は、奇跡的な技術革新でも起こらない限り、今後も人が担っていく。

リスキリングは、現場の仕事向けにしていくほうがいい。現場でも今後はAIやDXを活用することになるので、ホワイトカラー的な知的能力も生きる。それが本書でいう「アドバンストエッセンシャルワーカー」だ。

アドバンストエッセンシャルワーカーを目指すリスキリングが現実的な答えだし、その方向性なら体が元気である限り仕事を続けていける。

AIの得意分野でAIと競うのはやめたほうがいい。奴らは24時間365日いくら働いたって疲労も病気もない。AIと競うなんて無謀なことはしないほうがいいと思う。

バイアスを取っ払えば、チャンスだらけ

――エッセンシャルな仕事で付加価値を上げていくと。

そうだ。人手が余っている国ではエッセンシャルな仕事が低賃金労働者の受け皿になっているため生産性を上げすぎると問題になるが、今の日本は完全に構造的・恒常的人手不足だ。エッセンシャルな産業の生産性を上げていかなければ社会がもたない。

ということはエッセンシャルワークは、ガンガンAIを入れて、ガンガン自動化技術でDXして、生産性の高い職にしていける。エッセンシャルワークを高付加価値、高賃金にしていけばみんなウィンウィンだ。

――キャリア形成途上の20・30代にはどんなメッセージがありますか。

結局は同じことだ。これからの社会のあり方、テクノロジーを見渡したときに、何をすれば世の中の役に立てるか。仕事の本質はこれだ。仕事は「事に仕える」と書くが、世の中に役立つ対価としてお金をもらえるということだろう。先入観を排して、素でそれを考えていくといい。

いい大学に入って立派な会社に入ってホワイトカラーをやらなきゃ、という暗黙のバイアスを取っ払うと、全然違う景色が見える。一部の動きだが、すでに若い世代が地方で社会的起業をやったり、農業に取り組んだりしている。

世の中はチャンスだらけだ。人手が足りないんだから。海外に目を向けると、今の日本の若い人は恵まれていることがわかる。迂闊にAIやDXを入れてエッセンシャルワークゾーンの人減らしをすると革命が起きてしまう国もあるが、日本はその心配がまったくない。

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