圭子さんは入院して手術を受けましたが、その後、薬と放射線治療の影響から肺炎になってさらにひと月入院することに。折しも上の娘さんが大学受験、下の娘さんが高校受験というダブル受験のさなかでした。
「母親としてそばにいて支えてやることができないのが辛かったですね。娘が泣いて電話してきた時にはひたすら話を聞いて、面会に来てくれた時には『がんばって』と抱きしめて、心で応援するしかありません。家族4人、SNSのグループで毎日メッセージのやり取りをしました。早く退院したくて仕方なかったです」
そんな中、不登校だった娘さんとの間にちょっとしたいさかいが起こります。今思うと、それは圭子さん親子のその後のあり方を決めるできごとでした。
思い切って本心を伝える
「娘が家庭教師の先生との時間を『だるいから休む』と言ってきたんです。それまで何かあると私が先生にお休みの連絡をしていたんですが、その時は娘に自分で連絡するように言いました。『受験して本当に高校に行きたいなら、今ちゃんとやらないとだめだよ。お母さんに嫌な役をさせないで、先生には自分で言いなさい』って」
圭子さんは娘さんに愛のムチを放ったのです。これは一つの賭けでもありました。悪く出れば、娘さんは「じゃあ受験しない」と言いかねません。今まで頑張ってきた取り組みも水の泡になります。でも、圭子さんは「ここで自分の思いを伝えなければ一生この子は不登校から抜け出せないかも」と思ったのです。
失敗は許されません。病室にいるので失敗した時のフォローもできません。不安でいっぱいだった圭子さんは、娘さんに電話する前に、話すことをノートにまとめました。
子どもに言いたいことは何なのか、なぜそれを今言わなければならないのか、自分が抱えている不安は何なのか、心の中にあったことをすべて書き出しました。そして、娘さんに伝わるように言葉を選び、会話をシミュレーションしました。
圭子さんのとったこの行動は、思ったことを感情のままに伝えて険悪になる思春期の親子関係においてとても有効です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら