45歳で死を望んだ彼女が迎えた「安楽死の瞬間」 その時、医療介助死を支えた医師が感じたこと

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「ルート66」の曲の途中で、ヨランダはついに眠りに落ちた。彼女が最後に口ずさんだフレーズが「テイク・ザット・トリップの旅に出よう」だったのは、見事なタイミングというしかない。

午前11時09分。プロポフォールを1000ミリグラム投与。深い昏睡状態を引き起こす薬で、この量は多くの患者にとって致死量だ。濃度が高いので、プロポフォールの注射器と生理食塩水の注射器を交互に使わなくてはならなかった。

なるべく目立たないように注射器を使ったので、薬をすべて注入するのに2分ほどかかった。約5分後、ヨランダの呼吸が停止したことがわかった。

呼吸が止まっても、心臓は動いていた

しかし、まだ終わったわけではない。心臓がまだ動いていた。午前11時14分、肺を麻痺させる最後の薬であるロクロニウムを投与した(患者が絶命しても、わたしはいつもすべての薬を使う)。

ユーリとわたしはヨランダの頸動脈の脈拍を観察し続けた。彼女は長年にわたり、呼吸するのに多くの筋肉を使い続けたので、血管がくっきり浮かび上がっていた。

人びとにもヨランダの脈拍が見えるのではないかと心配したが、それを見ている人は1人もいなかった。

彼らの視線はヨランダの顔に、自分の足元に、部屋の天井に向けられていた。泣いている人、歌っている人、抱擁しあう人もいた。覆いかぶさるようにヨランダに寄り添う人もいれば、膝であれ足首であれ手の届くところに触れている人もいた。

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