辻仁成「ぼくの人生にそっと寄り添う子犬」の存在 ぼくを素直な人間にさせたのは、三四郎だった

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けれども、たくさんの人々に囲まれ、ぼくはぼくの街角で、思ったよりも多くの愛を頂き、今は生きることが出来ている。

街で一番不機嫌な女性も笑顔に

ぼくを素直な人間にさせたのは、三四郎であった。

カフェに行くと、みんながぼくに近づいてきて、三四郎に手を伸ばす。

三四郎を抱きしめてくれる。

この街で一番不機嫌な女性がいる。その人でさえ、三四郎には笑顔を見せる。

この街で一番怖そうな人も、この街で一番人気のある人も、みんな三四郎に手を差し出し、三四郎がその手を舐めると決まって幸せそうな顔をするのだ。

見知らぬ人たちが、必ず、三四郎を振り返り、笑顔で、キュートな子ですね、と言って去っていく。

まるで幸せをばらまく犬…。ぼくはその都度、孤独ではなくなる。

三四郎という存在を通して、世界とつながったような連結の幸福を覚える。

この子の登場はぼくの人生をリセットした。

愛とはなんだろう?

ぼくは愛を失ってばかりいる、ぼくはもう誰かへの愛を期待しない。

カフェの椅子に座る、ミニチュアダックスフンドのさんちゃん
三四郎は、ぼくの話を聞くけれど、理解が出来ないので、何度も首をかしげてみせる(写真:辻仁成さん提供)
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