一方、米国にとっても、石油価格の下落により、比較的高コストのシェールオイルの生産が抑制されるという問題がある。
政治面での効果は数字に出てこないが、経済効果に劣らず大きいと思う。イランはなんだかんだ言っても中東の大国。かつては、レバノン内で反イスラエル闘争を展開していたヒズボラを支援して兵力を送り込んでいた。現在は、過激派組織ISの攻勢にさらされているイラク政府を支援している。ヒズボラを支援することはイスラエルと米国に敵対する意味があったが、イラク支援は米国が歓迎するところだ。今後それがさらに強化されると米国にとって強力な援軍になり、核合意に対する米国内の反対論は吹き飛んでしまうだろう。
サウジアラビアが今回の核合意を支持したことも重要な前進であった。サウジアラビアはスンニ派イスラムの中心的勢力としてシーア派の雄であるイランとライバル関係にあり、米国がイランと交渉するのに批判的であった。そのサウジアラビアが合意支持に回ったので、今後、米国としては、イランの核開発と過激派組織ISの2大問題についてサウジアラビアとイランの両雄を味方につけて行動できるようになる。
問題はイスラエルの今後の動き
このような中東におけるパワーバランスの変化は、イスラエルにとっては、死活問題になりうる。そこが米国とは違うところだ。ネタニヤフ首相は現在も意気軒昂だが、いずれ強硬姿勢を再検討することが必要となるのではないか。
しかし、今次核合意がはたしてシナリオ通りに進展していくか。今しばらくは慎重に見守っていかなければならない。
エジプトやヨルダンなど例外を除き、大多数の中東諸国がイスラエルの存在を認めないという中東の根本問題は依然として未解決だからだ。イランがイスラエルを承認するならそれこそ大きな変化となるが、そのように展開する保証はない。
イラン政府についても問題がある。イランは民主政治であるが、イスラムの影響下にあり、政府はつねに支持されているわけではない。今次核合意に対しイランの宗教指導者が支持を表明したことは重要なことだが、合意が履行されていく過程でも宗教界の支持が必要だ。
また、イランは国際社会の疑念を晴らせるほど透明になっていない。これまで長い間、イランは国際原子力機関(IAEA)による査察に協力的でなかったので、これからは協力すると言っても、言葉だけでは信用されない。実行が必要だ。
一方、イランにも言い分がある。中東で核兵器を持っているのはイスラエルだけであり、イスラエルは他国の核開発に反対する立場にないと思っている。
イランの米国政府に対する反発も根強い。「米国は、1979年のイラン革命以前からイランの内政に干渉してきた。イランは米国の言いなりにはならない」という気持ちが強く、事あるごとに対米不満が表に出てくる。宗教指導者は、今回の合意は支持するものの米国との協力に何でも賛成するわけではない、と釘を刺している。
以上のように、イラン核合意の円滑な履行を左右しかねない要因はまだ残っているが、オバマ米大統領とロウハニ・イラン大統領が核問題に積極的に取り組み、2002年以来難航してきた交渉を成立させたのは画期的なことだ。これを契機に今後両国が、核問題に限らず相互の信頼感を回復する方向で前進できれば、中東情勢における最大の対立要因が除去されることにもなる。
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