「中国との一体化」に悩む台湾、総統選挙は現職が再選

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 一方の民進党は、中国とどう付き合うかで、国民党より魅力ある政策を最後まで打ち出せなかった。「台湾は中国ではない」という台湾人アイデンティティが強い同党としては、「国民党の政策では中国にのみ込まれるだけ」といった反論しかできなかったのも事実だ。

現実には、台湾経済はがっちりと中国経済とリンクされている。鴻海集団の郭台銘総裁や台湾セメントの王文淵総裁など台湾の大物財界の多くが「92年コンセンサス支持」を打ち出し、中国にいる台湾人従業員を飛行機で帰国させてまで投票を促したのは、現在の民進党では対中国との関係で大きな不安が厳然としてあるからにほかならなかった。

だが、馬総統は1期目以上に、「台湾アイデンティティ」とのバランスを迫られそうだ。

「先顧肚子」「含涙投票」。まずお腹が膨れること(=生活)を考え、本心とは違う候補に涙をのんで投票する。こんな言葉が投票日にはよく聞かれた。馬総統の政策は、短期的には現実的だが、決して多くの台湾人にとっての理想ではない。それは610万という野党候補の得票数で示されている。

ECFAをはじめ中国との経済運営も、「早々に行き詰まる可能性がある」とアジア経済研究所新領域研究センター企業・産業研究グループの佐藤幸人氏は指摘する。「これまで台湾側に有利な条件で妥結してきた中国の姿勢が変化し、投資保護協定や紛争処理などで台湾側の主張を受け入れず、協議が進まなくなるのでは」(佐藤氏)。

中国との関係という非常に敏感な問題の舵取りを誤ると、馬総統は早々にレームダック化する可能性もありえよう。 


(取材協力:台湾『今周刊』 =週刊東洋経済2012年2月4日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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