その後同盟国の反発に遭ったこともあり、ドイツは渋々この制裁に同意しました。ただし、ロシア国営ガス会社ガスプロム傘下の銀行だけは、制裁から除外するよう求めました。天然ガス代金の支払いにこの銀行との決済システムが必要だったからです。
ウクライナ戦争に対して欧米は大胆な制裁を発動しましたが、その裏では引き続き莫大な天然ガス代金をロシアに支払っていました。侵攻が始まってからの100日間だけでロシアに支払ったエネルギーの代金は、ドイツ単独で121億ユーロ(約1兆5730億円)、EU全体で570億ユーロ(約7兆4100億円)。ロシアがこの間にエネルギー輸出で得た総額は930億ユーロ(約12兆900億円)といわれており、ヨーロッパはウクライナへの支援金よりも多額の代金をロシアに支払っていたことになります。
アメリカやウクライナが、ロシア産天然ガスの輸入を止めるよう求めても、ドイツのショルツ首相は「現時点では、ヨーロッパの暖房、交通、電力、産業のためのエネルギー供給は、他の方法では確保できない。そのため、公共サービスの提供や市民の日常生活にとって不可欠な重要事項である」と、すぐに輸入を停止できないことに理解を求めました。
ガス依存からの脱却
ドイツ以外の国は、2000年代の早い段階でロシア依存から脱却しようと努めてきました。例えば、アゼルバイジャンなどのカスピ海沿岸国からのロシアを避けたパイプラインが、2020年にイタリアに開通しました。また、LNG(液化天然ガス)の輸入を中東のカタールやアメリカから増やす試みもなされました。
この動きはウクライナ侵攻以降一気に加速しました。ドイツすらノルドストリーム2計画を自ら取り消し、LNG施設の整備と、カタール、ノルウェー、アメリカ、アゼルバイジャンからの輸入増、節約などに努めました。
その結果、2021年に40%だったEUのロシアへの依存度は、2023年には8%まで低下しました。ウクライナ侵攻後の最初の冬に向けて、ヨーロッパではしきりに天然ガス不足が不安視されましたが、なんとか乗り切ることに成功したのです。
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ロシアはかつてエネルギー資源輸出の3分の2を占めていたヨーロッパ市場から締め出されることを悟り、新たな輸出先開拓に乗り出し、中国とインドへの輸出を増やしました。今後数十年をこのままロシアは中国・インドへの輸出で乗り切るつもりなのか、それともヨーロッパ市場に以前の水準まで回帰できるか、こうした点は未知数です。
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