工業国であるドイツでは、大規模な電力と製造業にロシア産の安い天然ガスが大量に使われていました。また、厳しい冬にも暖房の燃料として天然ガスが欠かせませんでした。ドイツはハートランドからパイプラインを通って送られてくるこの必需品が、ロシアを刺激することで停止されるのを恐れたのです。
1904年に発表されたハルフォード・マッキンダーの地政学の古典『歴史の地理的枢軸』は、このハートランドの膨大な天然資源を分析の基礎としていました。「ユーラシア大陸の奥深くには石炭や石油などの資源が膨大に眠っており、ロシアはこれを使ってユーラシア大陸全体の征服を敢行する」と予言したのです。
天然資源の輸送を可能にしたのが、当時まだ新しい技術だった鉄道でした。鉄道が内陸まで延びれば、重量のある石炭なども大量に運べるようになります。鉄道がユーラシア制覇を可能にしたとまではいえませんが、マッキンダーの予言はある意味当たっています。
ロシアはパイプラインという新たな陸上輸送手段で、ユーラシア各国にハートランドのエネルギーを供給しているからです。また、マッキンダーは特にドイツがハートランドの資源を欲しがることも予言していました。
天然ガスという武器
今の勢力関係を破壊して、回転軸となる国家に有利な地位を与えることは、やがてユーラシア大陸周辺の諸地域に対するその勢力の膨張を促し、ひいてはまた莫大な大陸の資源をその艦隊の建設に役立てさせる結果にもなる。
もし万が一ドイツとロシアとが合体したら、たちまちこの可能性が現実化する恐れがある……たとえ現在のロシアに代わって新しい勢力が内陸の一帯を支配する地位に立ったとしても、同地域の回転軸としての地理的な重要性が持つ意味は少しも変わらない。
ロシアは天然ガスを「政治的な武器」として用いてきました。端的にいえば、ロシアに従順であれば価格を安く、反抗的であれば価格を高くしてきたのです。
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