早く実用化したいのですが、まだ時間がかかります。診断薬は、企業が興味を持って開発してくれなければ実現しません。診断や治療の開発に、市場が絡むのは当然ですが、この『アレルギー』では、治療薬開発にまつわる市場についても言及されていて、すごいなと思いました。
がんや心臓病など生死にかかわる疾患にたいする治療薬の開発とは違い、多くはQOLを下げるだけのアレルギー疾患の市場は大きくはありません。開発コストがペイしないということですが、大学などのアカデミアが頑張るしかないですね。
質量分析装置という高価な装置を使えば、すぐにでも尿のマーカーを数値化してモニタリングすることが可能です。しかし、それを大学の研究室ではなく、万人が使えるような安価なキットにしなければなりません。現在そのキットの開発を我々の研究室では進めています。
「食べて治す」を実現したい
乳児期に口から食べ物を入れる前に、荒れた皮膚から抗原が入ってしまうことが、食物アレルギーを発症するリスクの1つであることが証明されました。これにより、アレルギーの予防法の1つとして、乳幼児の皮膚を保湿して守ってあげるという啓蒙が、広がりつつあるかと思います。
またアレルギーに対する薬の開発も進んできました。本書にも紹介されていた「デュピルマブ」と呼ばれる治療抗体の効果は、花粉症や喘息、アトピー性皮膚炎に対する効果が証明されています。しかし、まだ新しい薬ですし、安価とは言えません。金銭的には負担がおおきく、気軽に利用できる選択肢とは言えないかもしれません。
ちなみに私の研究室は農学部にあります。アレルギーは病気や薬だけ見ても、減りません。これまでお話してきたように、食を含む環境と深い関係がある疾患です。アレルギー学において、農学、環境学、食品化学が果たすべき役割の広さと深さを実感する日々です。
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