プロの料理人も涙「グランメゾン・パリ」のリアル 「もう一度見たい」とシェフに言わせるリアリティ

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たとえば、若手がシェフに努力を認めてもらえないときどう乗り越えるかが描かれた第6回、仕事と家庭の両立を描いた第7回、病気と老い、仕事へのモチベーションをとりあげた第8回など、どの回にも料理人の生活や才能に関する悩みや「あるある」が詰まっていた。

北海道・函館にあるレストラン「maison FUJIYA」オーナーシェフ藤谷圭介さんは、映画公開後すぐに見に行ったひとりだ。

「(映画の中の)料理を見ながら、自然と涙が流れていました。私自身フランス料理を作る料理人として、常にさまざまな葛藤を胸にレストランで働き、函館という地方都市で日々お客様を迎えています。今回の映画を観て、料理人という仕事の素晴らしさや、レストランが夢を与える存在であることをあらためて感じました」(藤谷さん)

ほかにもSNSでは、役者の料理する所作に注目したり、シェフというポジションの孤独さに共感したりする感想が聞かれた。メッセージをくれたシェフの中には「クライマックスの料理シーンをもう一回見たい」という感想もあった。

進化と革新を続けるフランス料理の「強さ」

尾花や倫子たちがミシュランの本拠地フランスで三つ星を目指すという、これまでなら荒唐無稽ともみなされそうな筋書きは、小林圭さんが2020年にフランスで三つ星を獲得した事実によって、ぐっとリアリティを増した。

映画の中で「外国人が日本ですし店を開いたとして、三つ星クラスの食材が簡単に手に入ると思うか?」というせりふがあった。

料理以前に食材集めひとつとっても、フランスにおいて外国人である日本人がフランス料理で三つ星を取るというのは、シェフ(尾花)ひとりの才能や努力だけでは到底実現できない、想像を絶するほど困難なことなのだ。退路を断ってその困難に挑む尾花たちの姿に、スクリーンの前で自らの生き方を重ねる人も多かったにちがいない。

そして『グランメゾン・パリ』は、多様性を受け入れながら伝統を革新させてきたフランス料理の本質を、ストーリーの重要な骨格として据えた。

フランス料理の本質的な強さは、常に進化と革新を続けるところにある。そのことを訴えかける今回の『グランメゾン東京』と『グランメゾン・パリ』は、ゲストと、そしてみずからの料理と日々向き合うプロの料理人たちの心をも動かすものになったといえるだろう。

星野 うずら レストランジャーナリスト

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ほしの うずら / Uzura Hoshino

出版社勤務のかたわら、アジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。個人サイト「モダスパ+plus」やTwitter(@caille2006)で、「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などガイドブックの解説記事やレストラン評を執筆。飲食専門のポータルサイトでシェフインタビュー連載中(飲食店.com)。Instagram(@photo_cuisinier)では、飲食に携わる人のポートレートを撮影している。
 

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