ロシア語vsペルシャ語・シリア国内の言語覇権競争 アサド政権下、言語教育を通じた周辺国の影響力

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シリアでは、アサド政権が100万人以上を殺害し、1000万人が国内外で難民となっている。このうち少なくとも200万人はテント暮らしだ。ガザも悲劇なのだが、シリア人はガザよりも多くの犠牲を払い、シリアの悲劇はパレスチナ以上と感じている。

中東は若い人の割合が多く、人口の半分近くが20歳未満だ。難民の半数近くが20歳未満とすると、500万人が学校に通えていないか、通えていてもトルコや欧州などアラビア語圏でない国に行った難民の子たちがいる。

母国語が大切なのは、それにより自分の文化やアイデンティティに誇りを持てるようになるからだ。

難民になった人もならなかった人たちも辛苦を舐めてきた。アサド政権が崩壊した時、シリア全土で民衆が集まって、喜びを分かち合いながら歌った歌詞は以下のようなものだった。

心からの安寧を望むシリア人

「頭を上げろ!おまえは自由なシリア人だ!」

「天国、天国、祖国は天国だ。祖国の火(戦火)さえ天国だ!」

上智大学で学び、アメリカ『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストであるジョシ・ロギンは「ワシントンはシリアでの歴史的な機会を逃す」という記事を掲載した。アサド後のシリアを支配するテロ指名組織やテロ指名手配の人々にチャンスを与えてよいのではないかと述べている。

戦禍を生き延びたシリア人は、かつての終戦後の日本のようだ。ようやく普通の暮らしに戻れる、国に帰れると安堵している。心から安寧を願っている。

何もかもが壊れたシリアの復興再建の道のりは長いし、楽ではない。個人レベルの問題行動は散見されるが、アサドを倒した勢力の指導部も大衆の民意も、民族や宗派で対立するのはもうやめよう、仲良く一丸となって国を再建しよう、イラクやアフガニスタンなど他の国々の過ちは繰り返してはならない、というものだ。

アサド政権崩壊後、シリアの事実上の指導者でヘイアート・タハリール・シャーム(HTS「シャーム解放機構)の指導者シャラア率いる暫定政府が樹立しそうだ。

2024年12月20日にアメリカ外交団がシリアでシャラアと会談した。シャラアは話のわかる人だったのだろう。「現実的」な指導者と外交団は好感触を持ったようだ。

シャラに懸けられていた1000万ドル(約15億3600万円)の懸賞金が撤回された。テロ指名解除のために、アメリカ側の条件が提示されたともされる。

アルカイダなどに所属したこともあり、テロ指名されている人物なので慎重に判断せざるをえないが、実際のところ、アサド後のシリアにはシャラア以外の選択肢は存在していない。

筆舌に尽くしがたい苦難と癒ることのない痛みや悲しみを抱きしめて、平和への道を歩もうとしているシリアの前途を悲観する見方もあるが、わたしは平和と安寧を望む人々を応援したい。

アビール・アル・サマライ 「ハット研究所」所長

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イラク・バグダッド出身。バグダッドのテクノロジー大学コンピューターサイエンス学部卒業。湾岸戦争後の1991年末に来日。アラブ・イスラム言語文化専門シンクタンク「ハット研究所」所長。中東情勢や中東メディア報道研究、イスラム・中東問題の勉強会、ハラルやムスリム対応のビジネスコンサルティングなどを手掛ける。外務省研修所、慶應義塾大学、学習院大学非常勤講師。NHKアラビア語ラジオ講座出演。

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