日本破綻を防ぐ2つのプラン 小黒一正、小林慶一郎著 ~大規模な円売り介入のプランBも論じる

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理論的には評者もまったく同様の結論に到ったが、現実に実行するとなると、幾つかの理由から、やはり躊躇してしまう。

まず、円安政策に頼ることで、必要な構造政策が再び先送りされはしないか。これまで、有権者に大きな痛みを強いる決断ができないが故に、必要な改革が先送りされる一方で、財政・金融政策によって一時しのぎが図られてきた。本書の意図は、大規模な為替介入で時間稼ぎをしている間に財政健全化を進めるべき、というものだが、再び改革を先送りするための言訳に終わるのではないか。

大規模な円売り政策が行われることで、新たな不均衡が蓄積される恐れはないか。現在の円高の痛みは、2005~07年に円安政策や米欧の信用バブルによって、日本国内で輸出ブームが生じ、産業構造の変化が阻害されたことが原因である。もう一つの懸念は、仮に現在、国債バブルが生じているとすれば、円売り介入の開始でバブルは崩壊しかねないことだ。円安加速と長期金利の急騰が始まれば、即座に財政危機に陥る。

本書で強調されているとおり、フリーランチは存在しない。政策の王道は地道に構造政策を進めてゆくしかないということだが、もはや、そのような時間は残されていないのではないか。

おぐろ・かずまさ
一橋大学経済研究所世代間問題研究機構准教授。1974年生まれ。京都大学理学部を卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了。大蔵省入省。財務総合政策研究所主任研究官などを経る。

こばやし・けいいちろう
一橋大学経済研究所世代間問題研究機構教授。1966年生まれ。専門はマクロ経済学。東京大学大学院修了。通商産業省入省。シカゴ大学でPh.D.取得。経済産業省課長補佐などを経る。

日経プレミアシリーズ 934円 287ページ

  

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