日本人はとかく今現在しか考えない 『日本人はなぜ株で損するのか?』を書いた藤原敬之氏に聞く
──岩井克人さん、青木昌彦さんにも学んだと。
このお二人は極めてオリジナル性が高い。岩井さんは経済の本質を、アダム・スミス並みに一言で「差」だと述べている。差異をどう作り出していくか。そこに運動が生まれていくと。これが、岩井経済学の核だ。『ヴェニスの商人の資本論』を読んだときに、これはすごいと。
青木さんの場合は、日本の企業をどう考えるか。日本人は連続的な需要変化に対応するのには強いが、ジャンプしたような思考ができないと教えられた。彼は、例のJ企業やW企業という類型化で分析している。投資において、長期投資に堪える企業かどうかのメルクマールとして、この考え方は極めて有益だった。
──原理的な分析をする際に、2項対立を多用しています。
アカデミックなものをどうやって現実のビジネスに展開させていくか。モチーフ(投資動機)をとらえなければならない。企業の本質を知るため、株価を四つの要素に分けて考えた。その要素を「株価素」と命名した。定性的な要素に分解すれば、企業がどういう状況になれば株価はどのように動きうるか、そのイメージを自分の頭の中で作ることができる。その株価素とは「原理の過大評価」「原理の過小評価」「内的否定」「外的否定」の四つ。たとえば東京電力がとんでもない株価になるのは当たり前と理解できる。原理が変わってしまったのだから。四つの要素のうち三つはネガティブだが、そのネガティブなものがポジティブに好転するときに、株価は大変化をする。
──この株価素はレヴィ・ストロースの神話研究に啓発されたとか。
神話には明快な共通性があり、民族が違ってもみな似ているというのだ。洪水に加え、怪物、英雄、それに心身障害者が必ずいる。神話は原始以来、「共有幻想」として持たれ、しかも何代も伝えられる。それだけ、神話的な要素は人間の作り出す何事にも宿っていると考えられ、これを応用して株価素を編み出した。