垂直統合の日本メーカー、パナソニック、シャープは赤字である。ソニーもそうだ。それに対して、水平分業の東芝は黒字である。EMSは黒字で、売上高純利益率が2%台を超えている。
EMSが利益をあげられる理由は、大量生産にある。エレクトロニクスの場合、数量が爆発的に増えると、コストも急激に下がる。EMSは、特定のメーカーだけから生産を受託するのでなく、全世界の企業を相手にする。だから大規模生産が可能となり、そしてコストが低下するのだ。重要なのは、EMSは、系列の下請けでないという点だ。蛸壺に入っておらず、全世界を相手にしているから、大量生産ができるのである。
そしてEMSが安い製品を作れるから、垂直統合方式のメーカーに赤字が発生する。世界を相手にそれだけに特化し、しかも中国の安い労働力を使う生産と競っても、勝てるはずがない。
液晶テレビの価格低下は、最近ことに著しい。アメリカでは、40~42インチモデルの店頭平均価格が500ドルを切りそうだと報道されている。一部には200ドルを切る場合もあると言われる。こうなる原因は、EMSが大量生産するからである。
パナソニックもシャープも、サムスンを意識していた。シャープの堺工場は、サムスンとの差を一気に詰めようとして、建設されたと言われる。パナソニックの大坪文雄社長は、「我が『打倒サムスンの秘策』」のタイトルで『文藝春秋』(10年7月号)に寄稿したほどだ。
しかし、サムスンは、量的に拡大しているだけだ。実際、テレビ事業は赤字である。そして、ウォン安がサムスンの拡大を支えたのだ。これは、トヨタ自動車など、円安期の日本の企業と同じ構造だ。仮にそうした企業を打倒できたところで、新しい展望が開けることはないだろう。
重要なのは、液晶テレビの生産モデルが、巨大EMSの成長で本質的に変わったことである。それにもかかわらず、垂直統合モデルを維持し、量でサムスンと競ったことが、基本的な誤りなのである。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2012年1月21日号)
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