一方で都のSCに就く前に勤務していた学校では、相談ケースの多さから、教師から「行列ができる相談所」と評されたこともあった。都のSCとしても、校長や教頭からの評価は極めて良好だった。退職の際は、教師や子どもたちから「東京都は見る目がない」「ぜひまた一緒に仕事をしたい」「先生がいなくなると困る」など多くの言葉をかけられたという。
しかし、雇い止め後、トモアキさんの暮らしは激変した。雇用保険にも入れなかったので失業給付もゼロ。あわただしく就職活動をした結果、4月からは別の自治体のSCや知能検査員、複数の大学の非常勤講師などの仕事を掛け持ちしているが、年収は半分以下となった。家賃8万円と私的年金「iDeCo(イデコ)」の積立金約4万円を捻出するのが精いっぱい。最近は数駅分を歩いて移動して電車代を節約しているという。
「前の年の所得に応じて算出される国民健康保険の負担が重いです。今は生活保護水準以下の暮らしなのではないでしょうか。不合格の烙印を押され、すべてに自信を失ったような気持ちにもなりました」と打ち明ける。
やりがいを語れることがうらやましい
心身ともに余裕がない中で、なぜ裁判の原告に加わろうと思ったのか。そう尋ねると、トモアキさんは迷うことなく答えた。
「何も行動を起こさなければ、(都の)やりたい放題が許されることになってしまうからですよ。私たちは生きていかなければなりません。機械の部品のような扱いは困ります」
今年10月、都内で原告SCたちによる提訴を報告する会見が行われた。トモアキさんは参加することができなかったが、1人の女性SCがマイクを握ると、会見場に集まった記者たちに落ち着いた、やさしい口調でこう訴えた。
「SCの仕事を10年間ライフワークだと思い、やりがいを持って働いてきました。ここにいる記者の皆さんが(自身の仕事を)大切に思い、誇りを持っているのと同じです」
記者たちのパソコンを打つカタカタという音が一瞬、止まった気がした。取材で会った女性SCたちはいわゆるコミュニケーション能力の高い人が多かった。こちらの質問の趣旨を十二分にくみ取り、相手の心に響く言葉を選ぶ勘のよさにたびたび驚かされた。きっと心理職としても有能なのだろうと思ったものだ。会見で記者に語り掛けた女性SCも、その1人だった。
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