新幹線の札幌延伸、函館素通りで泣く市民 全国各地で見られる負の側面

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18日には急きょ、高橋はるみ北海道知事が工藤市長を訪ね会談。分離後に設立される第三セクター鉄道には道が主体的に関与することを約束した。JR北海道の小池明夫社長も「全面的にバックアップする」と表明。新函館開業までに現在非電化の新函館-函館間を40億円かけて電化し高速化、三セク化された後も運行受託するなど同区間の運行を支援する方針を打ち出した。

こうした譲歩案を持って工藤市長は各種団体に説明行脚を行ったが、経営分離反対を貫く函館市民を説得できず。結局21日、自らの判断によって同意に踏み切った。

「函館を捨て石にするのではなく、札幌などと協力してJRに経営を継続させる取り組みがなぜできなかったのか」。混乱のさなか、函館商工会議所の松本栄一会頭はこう悔しさをにじませた。

全国各地で見られる 新幹線開業の負の側面

函館市にとって在来線の経営分離は観光業の死活問題などにつながりかねないが、同市のケースは決して珍しい話ではない。経済効果が高いとされる整備新幹線だが、日常的に新幹線を利用しない沿線住民は不便を強いられることも多分にある。

東北新幹線・新青森駅開業では、新青森延伸に伴い在来線の八戸-青森間が経営分離された。「八戸への移動が不便になった」と、弘前市内の飲食店主はこぼす。以前は特急列車が弘前-八戸間を1時間30分で結んでいたが、今はJR在来線と三セク「青い森鉄道」を乗り継ぎ、最短でも2時間20分かかる。

3月に廃止となる十和田観光電鉄線も新幹線の“犠牲者”だ。新幹線が三沢駅に止まらないため、同駅を起点とする同線の観光利用客が激減したのだ。観光客は今後、新幹線の七戸十和田駅から十和田観光が可能だが、同線を利用していた高校生は通学の足を奪われることになる。

九州新幹線でも、八代-川内間が経営分離され、三セク化した肥薩おれんじ鉄道では、電化維持費用すら賄えず、わざわざディーゼル車で走るという事態に追い込まれている。

整備新幹線をめぐっては、経済効果の極大化ばかりが議論されがちだったが、マイナス面をどう最小化するかもっと議論を深める必要がある。

(週刊東洋経済2012年1月21日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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