②「規制緩和」も進むはずである。いちいち議会で法律を通さなくても、規制当局のトップを挿げ替えるだけで効果は出る。化石燃料の開発が進むから、国内的にはガソリン価格の低下というメリットもあるだろう。AI開発や自動運転、暗号資産などに関連する規制の緩和も進み、イノベーションを誘発することが期待できそうだ。
トランプ構文がわかれば「またトラリスク」は怖くない
そして問題なのが、③「アニマル・スピリッツ」である。これがわかりにくい。それでも過去にいろんな人たちに聞いた話を総合すると、要はこんなことであるらしい。「民主党政権が何年か続くと、税金やら規制やらESG(環境・社会・統治)やらDEI(多様性・公平性・包括性)やら、企業経営にとっての重荷が増えてしまうんだよ。それらがスカッとなくなると思うと、それだけで開放感があるんだなあ。トランプ政権に振り回されるのは、もちろん愉快なことじゃないんだけどね」
それでは彼らは、「またトラ」リスクをどう考えているのだろう?「そりゃあ、不安がないと言えば嘘になるよ。関税を引き上げれば物価は上がるし、不法移民の強制送還をやれば、国内が労働者不足になって賃金コストが上がるしね。でも、トランプさんはビジネスマンだ。経済を悪化させるようなことをすれば、自分の首が締まることは十分に理解していると思うよ」
第1期トランプ政権のときにも、よく言われたものだ。「トランプさんの言うことは真面目に聞かなきゃいけないが、字句通りに受け止めちゃいけない」(Taking Trump Seriously, Not Literally.)。彼の発言は誇張が多いし、明らかな「ネタ」も含まれているので、片言隻句(へんげんせきく)にとらわれると混乱してしまう。でも、彼はいつもホンネで語っているから、そこは真面目に受け止めなければいけない。
つまり自分の支持者を喜ばせるためには、関税は上げたいし、不法移民は強制送還してやまず。でも、それでアメリカ経済をインフレにしてしまったら、元も子もないのである。ご本人も資産家であるから、株価や不動産価格も気にしているはず。だからウォール街を敵には回せない。その微妙な匙加減は、今回の財務長官人事にもよく表れている。
今回、他の閣僚人事がバタバタと決まる中にあって、財務長官人事の発表は11月22日とやや遅れた。経済スタッフ内部で、議論が割れていたからであろう。その結果、「関税タカ派」のハワード・ラトニックが商務長官に回り、本命たる財務長官を射止めたのは穏健派のスコット・ベッセントであった。この人事が発表されたその日に、アメリカの長期金利は低下した。「ベッセントが長官なら財政赤字が減るだろう」と市場が見なしたからである。
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