日立製作所が英国・北東イングランドで建設を進めていた鉄道車両工場の開所式が9月3日に挙行された。式典ではキャメロン首相やオズボーン財務相も出席、日英の関係者とともに英国での車両製造の再開を祝した。当日は、同工場で生産される車両「Class800」の日本で製造した完成車両が、多数の来賓の拍手のなかお披露目された。
今回、筆者もこの式典を取材する機会を得た。そこで当連載「観光ビジネスのリアル」の番外編として、現地での式典の様子をリポートしたい。観光ビジネスに重要な交通手段の1つである鉄道が、英国でどのように生まれ育ったか、という解説を交えながら、話を進めていく。
老朽化が激しい英国の鉄道車両
イギリスは、鉄道発祥の地だ。1825年、英国・北東イングランドのダラム州に「ストックトン・アンド・ダーリントン鉄道(Stockton and Darlington Railway)」が開業して以来、鉄道は200年近くにわたって英国の主な陸上交通機関として利用されている。中でもロンドン〜スコットランドを結ぶイースト・コースト線と、ロンドン〜ウェールズ間のグレート・ウェスタン線は鉄道の大動脈として高い需要がある。
ところが、これらのルートで現在使われている高速車両は、導入から30年以上を経ており、老朽化が著しい。英国政府は2000年代中頃から、都市間高速鉄道計画(IEP=Intercity Express Programme)と銘打ち、新型車両への更新を目指す計画を打ち出した。
欧州の鉄道車両業界は「ビック3」と呼ばれる、独シーメンス、仏アルストムとカナダのボンバルディアの寡占状態にある。IEP向け車両の受注をめぐっては激戦が繰り広げられたが、落札したのは日立製作所だった。日立は新幹線車両などの製造で長い経験と確かな実績を持つことが、英国でも高く評価されたことになる。
今回の工場開所までは長い道のりとなった。日立は2009年2月、英運輸省から優先交渉権を獲得したものの、翌2010年5月に実施された総選挙への影響回避を理由に契約交渉が凍結した。この総選挙では、ブラウン前首相率いる労働党から、現在のキャメロン首相による保守党へと政権が交代したが、IEPについては前政権時代の条件が引き継がれ、2011年3月に交渉を再開。2012年7月にようやく正式契約にこぎ着けた。総額57億ポンド(1兆600億円)に及ぶ大型契約となり、地元の雇用促進への大きな期待も寄せられた。
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