日立がイギリスの鉄道車両工場で目指すもの 鉄道発祥の地で高速車両を生産へ

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受注したIEP向け車両「Class800シリーズ」122編成(866両)のうち、12編成は山口県下松市にある笠戸事業所で生産し現地へと航送されるが、残りの110編成はダラム州ニュートン・エイクリフでの現地生産となる。最高速度は時速201キロ、グレート・ウェスタン線で2017年、イースト・コースト線で2018年、それぞれ営業運転が開始される見通しだ。

IEP向け車両生産の入札から今回の工場開所までの間に、日立は別の高速車両を英国に納入している。「ハイスピードワン(HS1)」と呼ばれる英仏海峡トンネルとロンドン市内を結ぶ高速専用線、および英国南東部ケント州の在来線向けに、双方で走行が可能な高速車両「Class395」を29編成納入、2009年から運用を開始している。ただ「Class395」は全車両が笠戸事業所で造られ、英国へと運ばれた。

鉄道誕生の地に再び工場が

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(googleマップより)

日立はIEP向け車両の英国での生産に当たり、ダラム州のニュートン・エイクリフ(Newton Aycliffe)を選定した。ここは前述の「ストックトン・アンド・ダーリントン鉄道」の沿線にあり、工場近くには1825年に敷かれた線路がいまだに現役で使われている。

また近くのシルドン(Shildon)には同鉄道の開業以後、150年以上も車両工場が営まれていたが、1984年に閉鎖。その際、1200人が失業したという。

ダーリントン鉄道博物館で展示されている最古のSL「ロコモーション号」

ダーリントンの北郊外には「世界で初めて鉄道が走った街」としての名誉を後世に語り継ぐため、1840年頃に建立された旧ダーリントン駅駅舎を利用したダーリントン鉄道博物館『ヘッド・オブ・スチーム』がある。ここには開通当日に走った世界最古の蒸気機関車「ロコモーション号」が保存され、鉄道史研究家の聖地にもなっている。

そんな歴史的経緯を持つダーリントン近郊に工場建設が決まったのは2012年のことだ。当時の地元紙は「鉄道発祥の地に工場が再び戻って来る」ともろ手を挙げて歓迎と伝えている。

2013年暮れから1年半で完成したニュートン・エイクリフ工場の面積はサッカーのピッチ6面分より大きい4万3000平方メートルで、月産能力は35~40両。来年2016年のフル生産を目指している。

式典の後、工場の内覧会も行われた。フル稼働時には月産35両が生産される

日立レールヨーロッパの取締役会長兼最高経営責任者(CEO)で日立製作所の執行役常務でもあるアリステア・ドーマー氏は「新工場の建設に携わった労働者のうち、95%は周辺50マイル(80キロ)圏内の居住者」「生産開始後の英国で調達が可能な資材調達のうち、72%が英国企業から」と説明。同工場では2017年時点で730人を雇用する計画であり、地元の期待は高まっている。

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