中華亞太菁英交流協会が2024年11月に実施した世論調査によれば、64.6%の国民が憲法法廷の判決を立法院は遵守する義務があると回答した。遵守義務はないと答えたのは19.3%にとどまり、与野党の支持者を問わず、憲法判断への尊重が示されている。
また50.2%が大法官は司法の専門性に基づいて判決を下したと評価している。大法官が与党の意向に従って判決を下した、あるいは政治の道具となっているとの見方は36.7%にとどまっており、台湾社会において司法の独立性と専門性に対する一定の信頼性は維持されていることが示唆される。
一方、立法院の場では憲法法廷をめぐる制度改革の政治問題化が避けられない状況が続く。2024年10月に許宗力司法院長を含む7名の大法官が任期満了を迎えるが、その後任について野党陣営が立法院で審査を行わない状況が続いている。
違憲審査が滞る恐れ
さらに、国民党の一部立法委員らは憲法訴訟法の改正案を提出している。一部違憲判決が出た直後に一種の「報復」のような形で提起されたもので、大法官の開廷人数基準を実質的に10名以上の出席を必要とすることや判決の評決基準を過半数から3分の2に引き上げることを目指している。
台湾の憲法解釈制度は近年、同性婚の法制化(2017年)、シラヤ族など平埔族の先住民身分保障(2023年)、死刑制度における適用要件の厳格化(2024年9月)など人権保障にかかわる重要な判断を次々と示してきた。現在、台湾の違憲審査の実態として、年間約2000件の審査請求があり、目下140件が審査待ちの状態にある。
野党陣営は、人事同意権の行使を拒否するか否決する可能性を示唆しつつ評決基準引き上げを推進している。この状況が続けば、11月以降は8名の大法官(憲法裁判事)しか残らず、違憲審査機能が停止する可能性がある。その結果、違憲審査請求が処理できなくなり、憲法法廷が機能しなくなる事態も予想される。
レビツキーとジブラットが『少数派の横暴』(新潮社、2024)で指摘するように、多数派の専制を防ぐために設計された立憲主義的な制度が、皮肉にも少数派による支配を可能にし、民主主義の機能不全を招くという逆説的な状況が世界各地で生まれている。アメリカでは保守派が多数を占める連邦最高裁による一連の判決が物議を醸し、東欧諸国では政府与党による司法の弱体化が進められるなど、立憲民主主義の制度設計をめぐる課題が顕在化している。
このような立憲民主主義の機能不全は、憲法典の改正を伴わない政治制度の変更によっても引き起こされうる。多くの研究者らが指摘するように、憲法体制とは憲法典だけでなく、公職選挙法や議会の議事規則などの重要な法制度を含む「基幹的政治制度」全体によって形作られているからである(『「憲法改正」の比較政治学』弘文堂、2016)。
台湾の立法院で起きた野党による国会権限拡大法案と憲法法廷制度の変更の試みは、まさに憲法典の改正を経ることなく台湾の憲政体制を徐々に変容させていく可能性を示唆している。今まさに台湾の権力分立体制が岐路に立っている。
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