台湾は防衛費を増やして防衛努力をさらに高める必要があるのは確かだ。しかし、トランプ氏やその周辺から出てくる言葉は台湾の民意への理解を欠いている。
台湾で広がる疑米論を助長しかねない
トランプ氏らの主張は、台湾にアメリカの武器を大量に買わせたあげく防衛は自分たちでやれと言っているように聞こえ、ウクライナ戦争のようにアメリカ軍は台湾を支援しない考えなのかと受け取られる可能性がある。アメリカには結局見捨てられるという「疑米論」が台湾で広がる可能性があり、それはまさに台湾統一(併合)を目指す中国共産党が狙っている展開だ。
トランプ氏の陣営はそのような台湾世論の動向をまったく認識していない。上から目線なので台湾の世論など気にする必要もないと思っているのだろう。しかし、アメリカが頼りにならないことがはっきりすれば、台湾の世論は従来の親米から動き始めるだろう。
それは中国との競争で対中抑止を図るアメリカの戦略にも影響しかねず、対中強硬姿勢であるトランプ氏自身にも打撃になりかねない。日本での台湾有事の議論にも影響しかねない。結果、東アジアにおける対中抑止構造や米中の力関係に連鎖反応を引き起こす可能性がある。台湾は米中の間で揺さぶられる存在であることは否定できないが、米中に影響を与えるアクターでもあることをトランプ氏らはわかっていないのではないか。
第1次トランプ政権では、国務長官、国防長官、安全保障担当大統領補佐官とそれに次ぐポストを基本的に台湾の微妙な位置づけと戦略的重要性をよくわかっている人たちが担っていた。彼らはアメリカの国家利益を考えるエリート層の出身である。
これらの当時の政権高官らは、トランプ大統領が政策の細部にこだわらない性質をうまく使って台湾重視の政策を次々と進めていったと指摘されている(ブルッキングス研究所のレポート、2024年10月)。しかし、いずれもトランプ氏と対立するか嫌気がさすかしてトランプ氏から離れてしまった。台湾から見てよき記憶がある第1次トランプ政権の面々はもういないのである。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら