的確な台湾の選挙分析から「選挙の神様」と呼ばれる日本人の学者がいる。彼はもともと台湾と縁もゆかりもないイギリス政治思想の研究者だった。
軽い気持ちで始めた台湾研究
――台湾政治の研究を始めたのはいつからですか。
私が35歳だった1994年からなので、ちょうど今年で30年です。
――始めたきっかけは何だったのでしょうか。
台湾で民主化が始まったことに興味をもったのがきっかけです。もともとは民主主義についての議論を展開していたイギリスの政治学者、ハロルド・ラスキの政治思想を研究していました。その後、イギリス経済が衰退していく中でサッチャー政権がどう政治運営を行っているかなどの分析もしていました。
ちょうどその頃、比較政治学の教員として東京外国語大学で教鞭をとるようになりました。さまざまな外国語を専攻する学生がいるため、私の講義を受けるのは欧州だけでなくアジアの言語を学ぶ人もいます。そういう学生に欧州政治だけ教えるのもよくないと思い始めたところでした。
そこでイギリスのように、すでに民主主義が定着した国と、新しく登場する民主主義国を比較したいと考え、当時民主化が進んでいた韓国や台湾なども研究して、論文を書こうと思いました。
――つまり、台湾にだけのめり込むつもりはなかったのですね?
そうです。韓国でなく台湾を選んだのも、当時は中国も民主化するだろうと考えられていたので、台湾をやっておき、中国語も勉強しておけば、いずれ始まる中国の民主化に使い回しができると都合よく考えていたからです。ひとまず台湾の政治経済や民主化についてさらっと論文を書いて、イギリス研究も続けながら広く比較政治学をやろうと思い描いていました。
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