日本人学者、台湾で「選挙の神様」になった理由 台湾で最も有名な日本人研究者の軌跡(前編)

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的確な台湾の選挙分析から「選挙の神様」と呼ばれる日本人の学者がいる。彼はもともと台湾と縁もゆかりもないイギリス政治思想の研究者だった。

小笠原欣幸
台湾で「選挙の神様」と称されるほど正確な政治分析が高い評価を受ける小笠原欣幸・清華大学栄誉講座教授(撮影:尾形文繁)

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台湾政治研究者の小笠原欣幸氏(東京外国語大学名誉教授、台湾・清華大学栄誉講座教授)は、台湾で最も有名な日本人研究者の一人である。台湾は総統選挙などの選挙戦が時には1年近くの長期におよぶが、その期間中には外国人であるにもかかわらず小笠原氏の名前が連日テレビで出てくるほどその発信に注目が集まる。
小笠原氏は2016年の総統選挙で各候補や政党の得票率を予想し、見事に的中。「選挙の神様」と台湾メディアに称されるようになった。2020年総統選挙でも同様に予想を的中させ、今や政治関係者をはじめ、多くの台湾の人たちが小笠原氏の分析に注目し、動向が逐一メディアで報じられるほどの存在だ。日台相互理解への貢献で2024年に外務大臣表彰も受賞した。
ところが、意外なことに小笠原氏が台湾政治の研究を始めたのは30代後半から。それまでは中国語すら話せなかった。元はイギリス政治の研究者で、日本では『イギリス衰退100年史』の訳者としても知られる。なぜヨーロッパの島国から東アジアの島国の専門家になってしまったのか。

軽い気持ちで始めた台湾研究

――台湾政治の研究を始めたのはいつからですか。

私が35歳だった1994年からなので、ちょうど今年で30年です。

――始めたきっかけは何だったのでしょうか。

台湾で民主化が始まったことに興味をもったのがきっかけです。もともとは民主主義についての議論を展開していたイギリスの政治学者、ハロルド・ラスキの政治思想を研究していました。その後、イギリス経済が衰退していく中でサッチャー政権がどう政治運営を行っているかなどの分析もしていました。

イギリス衰退100年史
イギリス研究の著作や翻訳書も手がけた小笠原氏。『イギリス衰退100年史』は出版当時、将来の日本も暗示しているのではと話題となった(撮影:尾形文繁)

ちょうどその頃、比較政治学の教員として東京外国語大学で教鞭をとるようになりました。さまざまな外国語を専攻する学生がいるため、私の講義を受けるのは欧州だけでなくアジアの言語を学ぶ人もいます。そういう学生に欧州政治だけ教えるのもよくないと思い始めたところでした。

そこでイギリスのように、すでに民主主義が定着した国と、新しく登場する民主主義国を比較したいと考え、当時民主化が進んでいた韓国や台湾なども研究して、論文を書こうと思いました。

――つまり、台湾にだけのめり込むつもりはなかったのですね?

そうです。韓国でなく台湾を選んだのも、当時は中国も民主化するだろうと考えられていたので、台湾をやっておき、中国語も勉強しておけば、いずれ始まる中国の民主化に使い回しができると都合よく考えていたからです。ひとまず台湾の政治経済や民主化についてさらっと論文を書いて、イギリス研究も続けながら広く比較政治学をやろうと思い描いていました。

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