日本人学者、台湾で「選挙の神様」になった理由 台湾で最も有名な日本人研究者の軌跡(前編)

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成果がなかなか出ないことで、やはり焦りが出てきます。時間をかけた以上、もっと納得するものを出さないといけないとプレッシャーも出てきます。それがずるずる続いてしまったうえに、台湾政治も政権が変わるたびに大きな変化が起きてしまい、次の展開を見ないと本を書けないという状況も出てきて、あっという間に20年以上経ってしまいました。

ただ、結果的に四半世紀のスパンを見たことで台湾政治の底流をつかむことができ、それを『台湾総統選挙』(晃洋書房)にまとめ、このテーマの決定版となる成果を示せました。今年は、2024年の選挙を踏まえて中国語の増補版も出しましたが、5年前の初版から結論は変わっていません。結論を修正する必要がなかったのです。本質を示す成果を出せたことは研究者として誇りです。

新興民主主義がどうなるか見届けたい

――途中で台湾研究をあきらめようと思いませんでしたか。

小笠原欣幸
台湾の民主主義の行方を見届けたいと語る小笠原氏(撮影:尾形文繁)

それはなかったです。中国から民主主義をやめさせようと圧力があり、台湾自身も過去の権威主義体制で残された負の遺産を引きずっていましたが、その険しさの中でも民主主義を発展させようとしていました。この新興民主主義がどうなるか見届けたい、ここでやめたら研究者としての意味もなくなると思いました。

幸い2000年前後から徐々に台湾政治関連での学会報告や論文発表ができるようになりました。周囲からの目も「イギリス政治研究の小笠原」から「台湾政治研究の小笠原」に変わり、台湾の専門家として声をかけられるようになり、モチベーションは維持できました。

後編では台湾で注目され始めて、一気に「選挙の神様」となっていった経緯を振り返ってもらった。)
劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。1994年台湾台北市生まれ、客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説を研究している。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、映画・アニメが好き。

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