2018年以降トランプ政権は中国をライバル視し、台湾重視の姿勢を鮮明にした。2019年にはF16戦闘機などの大型の武器売却も発表され、蔡政権はトランプ政権との連携を深めることに成功した。これは正式な外交関係がない台湾にとって重要な成果で、2020年のアメリカ大統領選挙ではトランプ氏の再選に期待する声が台湾で多く聞かれた。
この経緯を考えれば台湾がトランプ氏の当選を警戒する必要はないように見える。台湾の評論家の中からもトランプ氏の対中強硬姿勢に期待する声が出ており、トランプ氏による台湾への非友好的発言は選挙戦の中で出たものだから政策に反映されるのかは別だという指摘もある。
思い込みが強すぎるトランプ氏の台湾イメージ
しかし、台湾にとっては細かく見れば見るほど警戒感が高まらざるをえない。その理由は2点ある。1つは台湾軽視発言が決してジョークや選挙レトリックではなくトランプ氏の本心だと考えられること。2つ目は、第1次トランプ政権で台湾重視の政策を進めた政権幹部の多くがトランプ氏の周辺から去ってしまったことだ。根深い台湾軽視が政策に落とし込まれる懸念がある。
トランプ氏の台湾軽視発言は1度だけでなく何度も繰り返されている。「台湾がアメリカから半導体ビジネスを盗んだ」というのはまったくの誤解である。台湾の半導体産業がいかに発展してきたのか、そしてそれがアメリカのIT産業の発展に大きく寄与してきたことは日本の専門家が解説してきた。
それらの解説を読めば、台湾がファウンドリー(受託製造)と呼ばれる工程に特化する独自のビジネスモデルを立ち上げることで成功したことがわかる。だが、トランプ氏本人が「盗まれた」と思い込んでおり、おそらく誰かが解説したところで考えは変わらないであろう。トップがこういう思い込みにとらわれていることは台湾にとってまったくプラスにならない。半導体製造を台湾からアメリカに移せという圧力につながる可能性もある。
台湾の防衛費を増やせという主張については、共和党系の専門家らの主張と一致していてさらに根が深い。第1次トランプ政権で国防次官補代理を務めたエルブリッジ・コルビー氏は、台湾は現在対GDP比2.5%である防衛支出を10%に引き上げるべきで最低でも5%にと主張をしている。つまり、トランプ氏の発言は唐突なものではなく「アメリカ・ファースト」の外交政策を考えている人たちの間で出ている主張なのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら