このゼロからの固形石鹸づくりを通じて気づいたのは、「一度やめてしまったものを復活させるのは、そう簡単なことではない」というあたりまえの事実でした。
木村石鹸では、創業当時から続けている「釜焚き製法」での液体石鹸製造や、粉末石鹸製造も行っています。この釜焚き製法は、昔ながらの石鹸製造方法。大きな釜で、油脂にアルカリ剤を混ぜ、熱を加えることで反応させて石鹸にしていきます。
液体の場合で5〜8時間ぐらい。粉末石鹸にいたっては一日かけてつくったフレーク状の石鹸を4〜5日間乾燥させ、水分を飛ばします。その後、何度か細かく粉砕し、最終的にパウダー状の粉末石鹸に仕上げます。
製造開始から粉末石鹸完成までにかかる日数は、ほぼ1週間。このようにして製造した液体、粉末、それぞれの石鹸を原料として、さまざまな製品に配合しています。
釜焚き製法で石鹸を製造している会社はどんどん減っています。釜焚きによる粉末石鹸をつくっているところは、もうほとんど残っていないのではないでしょうか。というのも、粉末石鹸は製造に時間がかかる割に単価が安く、効率を考えると、続けていくのが難しいのです。
現在、日本に流通する「石鹸」は、東南アジアで製造された石鹸の元のようなものを日本で加工して最終商品に仕上げているものが多いのです。東南アジアで製造された「石鹸」が品質的に悪いわけではありません。
ふつうに考えると、日本で石鹸製造のための大きな設備を維持、管理して、まる一日以上職人に張り付き作業を強いたり、1週間近く粉末石鹸を乾燥させるためのスペースを確保したりするのは、かなり非効率です。
多くの石鹸メーカーが、自社での石鹸製造をやめて、海外からの調達に切り替えたのは、ビジネス面から考えると当然のことと言えるかもしれません。
「釜焚き製法」はカッコいい
僕が木村石鹸に戻ったころも、「釜焚き製法」はいつまで続けるのか、という話題がスタッフの間で囁かれていました。数年前にはあるスタッフから親父に「釜焚きをやめたほうがよいのではないか?」という提案もあったそうです。
そんな話も聞いていましたし、僕自身も、あまりにも割に合わない業務は会社の状況を考えるとやめることも致し方ないことだろうと思っていました。しかし、釜焚き製法の様子を見て、その説明を聞いたとき、僕は感動したんですね。
子どものころ、僕は現・八尾本社の敷地内に住んでいて、製造現場が生活のすぐ近くにありました。何度も釜焚きの様子は見ていたはずなのですが、まったく興味がなかったからでしょうか、ほとんど覚えていません。
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