TBSドラマの「問題演出」は、なぜ起きたのか 裏には「下請構造」と「甘いチェック機能」
この縦長のバッジは「ブルーリボンバッジ」と呼ばれるもので、安倍晋三首相も着用して記者会見などに登場する。北朝鮮による拉致被害者の救済運動のシンボルのバッジである。ネットで話題になった時点で筆者も録画機で場面を繰り返し見てみたが、どう見てもブルーリボンバッジにしか見えない。
9月4日、TBSは公式ホームページ上でこの場面で寺田農がつけていたのが「ブルーリボンバッジ」であることを認め、謝罪する文章を掲載した。
あまりにも短く、なぜこうなったのかの経緯の説明もない。「他意はありませんでした」「配慮に欠け」という表現からは真摯な姿勢は伝わってこない。「お知らせ」という題の付け方も、「おわび」や「謝罪」はしたくないという潔さを欠く姿勢が透けてみえる。
誰も異論を唱えなかったのか?
ブルーリボンバッジは、安倍政権中枢の安倍首相や菅義偉官房長官ら自民党議員のほか、民主党、維新の党などの野党議員もつけている。
このため、ブルーリボンの持つ政治的な意味をよくわからないドラマ制作の美術や衣装のスタッフが「より国会議員らしく見えるかもしれない、本物らしくしたい」と意識し、このバッジを購入し、胸元に付けることを企図したのかもしれない。
だが、そうではないはずだ。そもそも、このドラマは「本物らしさ」を追求しているわけではない。SPたちが路上で立ち話をしながらスマートフォンで過去のニュース記事を見ていたり、都知事を警護するために廊下に4人も5人も立っていたりする。実際のSPだったらありえないでしょ、ということの連続だ。
ドラマだから、という面があるにしても、そういうリアルさについては全然勉強していない。せめて議員だけでも「本物らしさ」を出そうとブルーリボンバッジをつけるという安手の“演出”をしたのだろうか。でもそれでは俳優たちも気の毒だ。寺田農さんなど、この演出を考えた番組スタッフのせいでブルーリボンをつけていた映像が繰り返し再生されることになる。
1本のドラマの完成には、何度も試写が繰り返されるのが普通だ。それなのにディレクター(演出、監督)もカメラマンもプロデューサーも、この場面を見て何も疑問に思わなかったのだろうか。そうだとしたら、なぜなのだろうか。通常、どの番組でもプロデューサーが2、3人いて、この種の「事故」を防ぐためにチェックを行う。政治家からクレームが来るのではないか、実際に運動している団体関係者を傷つけるのではないか、という疑問の声は出てくるものだ。何ひとつ意見が出なかったというのは、ドラマのスタッフが報道に関心が薄いことを差し引いたとしても、考えにくいことだ。
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