あなたは「北朝鮮ポップス」を知っていますか NK-POPはプロパガンダだけではない
「日本でやっている(北)朝鮮と韓国の歌のイベントで、朝鮮が勝ったらしいですね」──。2014年9月に訪朝した筆者に対し、受け入れ団体の職員がこんなことを口にした。
正直、歌のイベントってなんのことか、と思った。それが、東京でこれまで4回開催されている「K-POPvs.NK-POP」のことだ。その時の旬な韓国のポップスと日本では聞き慣れない北朝鮮のポップスを視聴するイベントだが、そんなイベントがあったことが、北朝鮮でも知られているという事実に驚いた。
イベントを主催するのは、北朝鮮など朝鮮半島情勢のニュースサイト「デイリーNKジャパン」編集長で在日コリアンの高英起(コ・ヨンギ)氏と作家のカルロス矢吹氏。この二人が今回、北朝鮮ポップスの魅力と歴史などを込めた『北朝鮮ポップスの世界』(花伝社)を出版した。植民地支配の歴史や現在の拉致問題など外交面では複雑な関係にある北朝鮮。そんな北朝鮮の音楽を、著者たちはどう見つめ、何が魅力だと考えているのか。
なぜ北朝鮮ポップス?
──日本から見て、北朝鮮にはなかなか前向きな関心を持てない人が大多数と思います。その中で、なぜ北朝鮮ポップスなのでしょうか。
カルロス矢吹(以下、矢吹):僕はもともとワールドミュージックが好きで、世界中の音楽を聴くのが好きだったんですよ。だから今回も北朝鮮ポップスをその音楽性のみに着目して、ワールドミュージックの一つとして語りたかった。実を言うと、「北朝鮮」という「国」には関心がないんです。北朝鮮の芸術といえば、自国の社会主義体制を喧伝する「プロパガンダ」として見られることがほとんど。確かにプロパガンダではあるのですが、音楽自体の評価はどうなのか。そこを見たかったのです。
今回は、純粋に音楽性についてのみ評価できたと思います。政治や歴史の話があったとしても、それは「その楽曲がどういう政治・歴史の状況の中で生まれたのか」と、楽曲を理解するための補助線としてしか利用していません。この試みは成功したと思います。
高英起(以下、高):私は在日コリアンとして、生活の中で北朝鮮の音楽に触れることはありました。北朝鮮の機関誌に付録として音楽のソノシートがあったことを記憶していますし、朝鮮総連(全日本朝鮮人総連合会)系の大阪朝鮮高級学校で学びましたが、音楽の授業で習うことはあった。当時はロックが好きだったので、民族系の音楽系には拒否感がありました。とはいえ、音楽自体は「歌いやすいな、よく練られてつくられているな」と感じていました。
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