金正恩が水産加工施設を重点視察するワケ 北朝鮮は、現実的な政策を継続できるのか
北朝鮮経済のさらなる改善には、現実的政策の継続がカギ--。北朝鮮経済の専門家がこのような指摘を行った。日本でも有数の北朝鮮専門家で、環日本海経済研究所(新潟市)調査研究部の三村光弘主任研究員は、東京都内で行われたシンポジウムでこのように指摘した。
現在の最高指導者である金正恩第1書記を中心とする政権が本格化した2012年以降、北朝鮮経済はゆっくりと回復していると説明。今後は生産の増加による国民生活の向上と、朝鮮労働党幹部や軍部などの既得権層の不満緩和をいかに両立させるかに、金正恩時代の経済改革の行方を占うと指摘する。
三村氏は、金正恩時代の経済運営について「昔の旧ソ連や東欧のように社会主義諸国が北朝鮮経済を助けることはないという現実的な金第1書記の認識に基づいている」とし、いろんいろいろな策を実施してみて、成功したものをアナウンスして全国に広めると手法を採っているという。それが、農業分野における「分組管理制における圃田担当制」であり、「社会主義企業管理責任制」といった国営工場などでの経営自主権の拡大、すなわち支配人(社長)の権限を広げ、現場の実状にあった方法で生産を増やすという方法を広めているという。
工業・農業での現実的政策が普及
圃田担当制とは、協同農場の農場員のうち1~4人ぐらいの単位で一定の期間、一定の土地の耕作・農作業を任せ、収穫量に応じた分配を行う、というもの。働いて成果を上げた人にはそれだけの分配を行うなど、農場員のインセンティブを刺激する方法だ。また、工場での自主権の拡大とは、「支配人がある程度采配をふるえるようにし、結果を出させること」(三村氏)だが、「結果を出せないとクビになる」という。
農業面ではこの数年、穀物生産量は緩やかに回復している。北朝鮮は公式的な統計を発表せず、また2014年は天候不順による水不足で農作業への影響が心配されていた。だが、「コメなどの価格がそれほど変動していないことから、それほど悪い生産量ではなかったと見ている」と三村氏は説明する。食糧の問題については、量的問題は数年~5年以内の解決にほぼメドがついたとされ、次はタンパク源の確保や栄養バランスの改善が課題になっているという。
北朝鮮メディアが報じる金第1書記の現地視察先には、最近は漁場や水産加工施設などが多く、比較的安定的に確保できる水産部門から栄養改善の問題を解決しようとする意志が見られるのも確かだ。
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