あなたは「北朝鮮ポップス」を知っていますか NK-POPはプロパガンダだけではない

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──北朝鮮の音楽はプロパガンダであり、独裁礼賛だ、そんな音楽を聴くなんて、という反応が当然想定されます。

矢吹:おっしゃる通り。現在の体制に逆らうような音楽を作ることは許されない国家だと思います。でも、世界的に聴かれているクラシック音楽はどうか。もともとクラシックは、かつて君主である王様など支配側がパトロンやスポンサーになって作られた「宮廷音楽」であり、体制批判は許されなかったはずです。たとえば、エルガーの「威風堂々」などは体制賛美以外の何物でもない。では、「威風堂々」を聴くことは間違っているのでしょうか。

言いたいのは、音楽が体制を賞賛していることと、音楽自体の芸術性は別の問題であり、分けて考えるべきではないか、ということ。芸術作品として北朝鮮ポップスがどうなのかを、今回考えてみたかったのです。

著者の2人

:1948年の建国以降、北朝鮮にはさまざまな音楽が作られており、確かに体制内の音楽ではあります。でも、その歴史を振り返ると、体制賛美で作られた楽曲であっても、民衆に人気がなければ消えていった曲が少なくはありません。

韓国とともに北朝鮮も、朝鮮半島の南北では多様な音楽を作り出してきました。それは紛れもない事実で、その音楽をじっくり聴いてみようという考えました。

YMOも北朝鮮に影響を与えた

──最高指導者である金正恩第1書記体制になって以降、「モランボン楽団」の登場や欧米の音楽や芸術を取り入れた公演などが北朝鮮で行われ、話題になりました。体制賛美、指導者礼賛一辺倒ではなく、北朝鮮ポップスもそれなりに時代の変化を取り入れている、ということでしょうか。

:そうだと思います。1983年に北朝鮮で旺載山(ワンジェサン)軽音楽団、1985年に普天堡(ポチョンボ)電子楽団が結成されました。その時その時の彼らの演奏を聴いてみると、徐々にいい具合に力が抜けてきている。よい意味での引き算の演奏というか、同じ楽曲でも、作られた当時の演奏とその後の演奏を聞き比べると演奏が研ぎ澄まされた感じになり、聴きやすくなっていることが多いのです。

私もかつてバンドをやっていましたが、たとえばギタリストを長ければ長くやるほど、外からよい部分を取り入れながら、自分で工夫して演奏するようになります。北朝鮮の音楽家もそれは同じだと思います。ミュージシャンとしてみると国籍などで変わることはない、同じ音楽家なのだとわかります。

矢吹:1980年代に入ってからは、クラシックや軍歌の音楽的要素以外の要素がだんだんと強まっています。時勢にあった音楽を取り入れていることがわかるのです。1985年に結成された普天堡電子楽団の楽曲や演奏をみると、日本のイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の影響を最も強く受けていることに疑いの余地はありません。

ドイツのクラフトワークの「アウトバーン」が1974年、YMOとディーヴォのデビューが1978年。沢田研二が歌った「TOKIO」のシングルカットが1980年。月日を経て徐々にアンダーグラウンドからテクノポップが世界中に広まっていき、それが1985年になって普天堡電子楽団の結成につながりました。

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