あなたは「北朝鮮ポップス」を知っていますか NK-POPはプロパガンダだけではない

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:彼らの独自性もあります。「首領様のおかげ」という彼ら楽団の曲がありますが、歌詞や演奏を見ると、シンセサイザーなどの電子楽器を朝鮮風に、自分たちのアレンジで利用している。これまであった下地や文化に合わせて取り入れていることがわかる曲です。このように、北朝鮮ポップスとは、北朝鮮でつくり上げてきた音楽の基礎に加え、世界の流れを取り入れた楽曲を作っているということがはっきりとうかがえるものなのです。

矢吹:そのような過程は、日本の歌謡曲だって経てきた歴史です。北朝鮮だけが遅れているとか、特殊といったことではありません。

──日本でも少しは知られている北朝鮮ポップスの一つに、「口笛」という楽曲があります。これは2000年に南北首脳会談が行われた後、韓国でにわかに北朝鮮ポップスブームが発生し、北朝鮮の楽曲を集めたCDも発売されましたが、それにもきちんと入っています。

:北朝鮮が生み出した「ヒット曲」と言ってもいい曲です。好きな女性の気を引くために、ある男性がその女性の家の前や職場を通るたびに口笛を吹いている。女性はそんな男性の気持ちを断り続けるが実はうれしい、というストーリー。これがウケました。韓国人は一時期、これも韓国の曲だと思っていたこともあったようです。

矢吹:この歌にはミュージックビデオも作られています。この時代に北朝鮮でミュージックビデオを制作するのも相当珍しかったはずです。軍歌やいかめしい曲もつくられていますが、このような庶民の実生活にでもあるようなことを題材とした曲もきちんと作られており、それが人気を得ているということです。

将軍様の芸術論は柔軟だ!

:この時代、故・金正日総書記が執筆したという『音楽芸術論』が出ています。この中に、「世界的に新しい電子楽器が出現しており、それにもとづいた新たな現代音楽が発展している。こういった音楽の発展の趨勢(すうせい)を無視しては音楽を世界的レベルに引き上げることはできない」と書いてある。

また、「外国の音楽の成果と経験を取り入れるにあたっては、なんでも見境無しに取り入れたり、うのみにすることなく批判的に取り入れて、自分のものとして消化する必要がある」といった内容も同時に記されています。この記述通りに、北朝鮮の音楽もつくられていったのがわかります。

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矢吹:イベントをやり始めて、これまで北朝鮮の音楽をいろんな人に聴いてもらいました。聴いてくれた人の大部分は「なにこれ?」と拒否反応を示されました。ところが、バンドマンやDJといった音楽に詳しい人たちは「これはすごい」「こんなの聴いたことがない」と強い興味を示してくれる。

将来、北朝鮮ポップスに刺激を受けた音楽家が新たな音楽を生み出すこともあるかもしれません。「好きになれ」と言うつもりは毛頭ありませんが、「こういう音楽があるんだよ」ということを情報として知っていてほしいんです。

:「北朝鮮体制に批判的なあなたが、なぜ金日成や金正日をたたえる音楽を聴くのか」とよく聞かれます。確かに、個人崇拝がメインテーマである北朝鮮ポップスを聴くことは体制翼賛なのかもしれません。

とはいえ、一番知ってほしいのは、どんな音楽であれ、誰でも何の制約も受けず、強制もされず、聴きたい音楽を聴いてほしいということです。それは、北朝鮮ポップスにとっても同じ。純粋に音を楽しむ人が増えてくれればいいと考えています。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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