彼が送ってくる文面だけでも、症状が改善されていないことは明白だったので、僕は一度電話をすることにした。ワンコールで出た彼は電話口で、「ごめん、ごめん」を繰り返す。「一旦お茶でもしませんか?」と僕は伝えた。
数ヶ月ぶりに外に出たという彼は、無精髭ではあったが、身なりはきちんとしていて、顔色も悪くない。一緒に働いていたときと、さほど変わらない印象だった。僕に送ったメッセージについて、そのときも彼は一生懸命に謝っていたが、正直僕は気にしていなかった。そんなメッセージの一つや二つでは到底埋まらないほどの迷惑を、僕は彼にかけたことが過去にあったからだ。
とある案件で、一緒に仕事をすることになっていたのに、ギリギリになって僕がドタキャンをしてしまった。そのとき僕は、言葉がうまく出てこないほど、精神的に参ってしまい、一日の大半の時間を布団の中で過ごした。しばらく電車に乗ることもできなくなった。仕事をするなどもってのほかで、貯金額だけがどんどん減っていく。食事もほとんど口にせず、アイスばかりを食べていた。そのときに二日から三日に一度、コンビニの弁当と飲み物を買って、様子を窺いに来てくれたのが彼だった。
結局、半年くらい僕の隠遁生活はつづく。彼はその半年間、二日から三日に一度、当たり前のように食事を届けてくれて、話をひたすら聞いてくれた。言い過ぎではなく、命の恩人だと思っている。そのときの恩を返すときがやっときた、と僕は思った。彼はある時期はとんでもなくハイになり、そうなったあとは、信じられないくらいにローになって、攻撃的なメールを友人知人にやたらめったら送ってしまう。
今日は疲れた。いい意味だけど
僕に会ったとき彼は、ポロポロと涙を流しながら、嵐の中に突っ立っているような落ち着かない気持ちと、内臓を搔きむしりたくなるほどのかゆみに襲われることについて力説してくれた。僕にも身に覚えがあることばかりだった。「あー、あるある」とか「ああ、その感じ懐かしいな。いまでもときどきあるけど……」などと僕が合いの手を入れていると、彼は最初泣いていたのにだんだん可笑しくなってきたらしく、両手で顔を覆いながら笑い始めた。「気持ち悪いだろ?」と彼が言う。「まー、みんな気持ち悪いですよ」と僕は返す。
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