メルケルに対する批判は正しいのか?--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授


ビジョンを表明しなければならないという圧力のせいで指導者が困難に陥る可能性もある。ある大学の総長はこう語っている。

「誰もが『あなたのビジョンは何だ』と聞いてくる。でも、あまりにすぐに答えると、多くの人を怒らせて問題になる。最初の賢明な答え方は『あなたはどう思いますか』だ。そして、自分のビジョンを表明する前によく聴くことだ」。

ビジョンが成功するには、支持者と利害関係者のさまざまな集団にとって魅力的でなければならない。また、ビジョンが成功し続けるには、ある集団が直面する状況を効果的に診断するものでなければならない。

壮大なビジョンを掲げる危険性

ビジョンの大胆さは、どんな分野の指導者であるかによって異なる。社会運動の指導者は公務員よりも大きなビジョンを描き出すことができる。一方、首相は多数の目標と責任を抱えながら国民と継続的な対話を維持しなければならず、あまり先を行くことはできない。ゴア元米副大統領は00年の大統領選に敗れた後、地球温暖化防止を目指す社会運動の指導者となったが、同氏のスタイルは実践的なものから感動的かつ予言的なものに変わった。

アナリストは政府の指導者のビジョンについて、現実主義とリスクの間で合理的な均衡を生み出しているかどうか、また能力と目的との間で均衡が取れているかどうかといった観点から判断を下す。

たとえば、ブレア元英首相に批判的な向きは、同氏のビジョンを表明する能力の高さを認める一方、細部にまで気が回っていない点を批判する。同様に20世紀の二人の米大統領、ウィルソン元大統領とブッシュ前大統領は野心的な外交政策ビジョンを表明することには長けていたが、実行の過程でビジョンを手直しするのが不得手だった。両大統領とも民主主義を推進したが、反発を呼ぶ形で行われてしまった。

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