メルケルに対する批判は正しいのか?--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

欧州がユーロを救済しようと苦闘する中、経済大国の指導力の弱さに対し不満の声が高まっている。特にメルケル独首相が、師と仰ぐコール元独首相が抱いたような欧州の将来像を打ち出せていないとしてやり玉に挙がっている。こうした批判は正しいのか。

有能な指導者がすることの一つは、政策に意味を与え、政策を支持する気持ちを起こさせるビジョンをしっかり伝えることだ。通常、こうしたビジョンには、変化を促すための将来シナリオが提示される。ただし、現状や過去を魅力あるものとして描き、変化に抵抗するように促すこともありうる。

しかし、人はビジョンに関して慎重でなければならない。間違ったビジョン、あるいは過度に野心的なビジョンはかえって有害になりうる。ブッシュ第41代米大統領はビジョンを持っていないと批判され、自らも認めた。彼は、スタッフにもっと大胆かつ縦横無尽に語るように求められると、「そういうのは私じゃない」と答えた。

2001年9月の同時多発テロの後、息子のブッシュ前米大統領ははるかに野心的なビジョンを生み出した。元顧問の一人によると、前大統領は「中東に民主主義をもたらすといった壮大な考えにどうしようもなく引き付けられた。父親が慎重で小規模な政策を取ったのと対照的だった」。だが結局は父ブッシュのほうが、よりよい外交政策を持っていたことが明らかになった。

野心的な指導者の中には、支持者を圧倒するようなビジョンを発表しようとする者もいる。しかし実際は、集団の必要に応じて生み出され、その後に指導者によって策定され表明されるビジョンがしばしば成功する。たとえば、キング牧師が「私には夢がある」と語った演説で示したビジョンは、米国が公言する価値である平等と包摂だけでなく、アフリカ系米国人が経験した従属と排除に深く根差している。

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