家族でヒヨコを育て、時には「丸焼き」にする生活 住宅街にある自宅の庭を活用してヒヨコを飼育

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ヒヨコから育てたニワトリを食べるということ

生き物を飼うことは、観察することからはじまる。

ニワトリたちと一緒に暮らしているうちに、6羽のメンドリには羽の色、歩き方、トサカの形など、それぞれに特色があることがわかってきた。脚に色ゴムを結びつけ、それぞれに名前をつける。

当時、小学3年生だった娘の秋(しゅう)は、ゴムの色など見なくても、一瞬でニワトリが見分けられた。 どうしてわかるの、と聞くと、顔を見りゃわかる、と言う。玄次郎はニワトリ係だったはずが、買ったばかりのゲームに夢中になっている。

ヒヨコの頃からお姉さんっぽかった優しい性格の「モア」、やせていて落ち着きのない「ブラック」、昼寝が好きな「タンポポ」、やんちゃで利口な「パープル」、すまし顔で意地悪な「チビ」。「モモ」は、がに股で体重が重く、ゆるいフンばかりするさえないトリだ。

秋の一番の仲良しは、モアだった。学校から帰るとモアを抱っこしてどこかへ行き、親に言えないテストの点数など、秘密の話をしていたようだ。モアの背中のやわらかい羽毛で、涙をぬぐっていることもあった。

モアは気がやさしいためか、キングによく追い回されていた。

ある日曜日の夜、私が買い物をして家に帰ると、次男の玄次郎が「訃報です」と言った。ウッドデッキに行くと、すでに文祥によって首を落とされたモアが逆さまにぶら下がっていた。秋が庭の隅にある池(古い浴槽を埋めて水を張ったもの)に落ちているモアを見つけたという。彼女はこれまでにハムスターの死なども経験しており、飼っている生き物が死ぬことには多少慣れているためか、静かに涙を流していた。

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私たちはモアを解体し、身体に野菜を詰めて、薪ストーブで丸焼きにした。かわいがっていた生き物を食べるのは初めてのことだったが、パリッと焼き上がった肉は、味が濃くておいしかった。

家族のように一緒に暮らしてきたモアが、死んでしまうとあっけなく、おいしい鶏肉になった。そこにモアの個性などない。何気なく食べてきた肉も、どこかで顔や個性を持って生きていた豚のタロウくん、鶏のピイコちゃんだった。

以来、どなたか存じませんが、いただきます……と頭の片隅でちょこっと考えてから、ありがたく肉を食べるようにしている。

服部 小雪 イラストレーター

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はっとり こゆき

1969年生まれ。イラストレーター。女子美術大学卒(美術学科洋画専攻)。在学中はワンダーフォーゲル部に所属。夫、二男、一女と横浜に在住。家族、ニワトリのいる日常をテーマにしている。

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